青梅街道の開通とともに遷座された雨と水と風の神様
青梅街道と新青梅街道が交差する一角にある「田無神社」は、石造りの「一の鳥居」が目印です。鳥居をくぐって石畳階段を上がっていくと、自然豊かな境内の景色が広がり、参拝に訪れる人々の目や心を和ませます。
田無神社は鎌倉期(13世紀)、田無北部の谷戸(山あいの低地のこと)に創建されたのが始まりです。ご祭神は「尉殿大権現(じょうどのたいごんげん)」と呼ばれる、級津彦命(しなつひこのみこと)と級戸辺命(しなとべのみこと)。雨と水と風を司る神様を祀っています。
徳川家康が江戸城の建築や城下町を造営するにあたって、青梅から大量の資材を運ぶためのルートとして青梅街道が開かれたのは1603年のこと。その運搬の中継地として宿場町・田無村が生まれ、谷戸に暮らしていた人々は、1キロメートルほど南に位置した青梅街道沿いへと移住しました。
宮山に鎮座していたご祭神は、上保谷を経て現在の地へ。宮山に残っていた本宮は1670年に遷座しました。
「尉殿大権現」は1872年に「田無神社」と社名を改めます。その後、1910年に町内の5つの小社を合祀し、現在に至っています。
江戸時代の名工・嶋村俊表の意匠が見られる本殿
写真提供:田無神
境内の中央に位置する社殿は、拝殿と本殿で構成されています。拝殿のその先に鎮まる本殿は、暗闇の中にぼんやりと見える程度ですが、それでも格別の美しさを宿した彫刻を仰ぎ見ることができます。本殿の彫刻は嶋村俊表(しまむらしゅんぴょう)によるもの。川越氷川神社の本殿や成田山新勝寺釈迦堂なども手がけた、江戸時代後期に活躍した彫物大工です。
写真提供:田無神社
獏や象、獅子、龍などが彫刻された梁や、ご祭神のご利益のひとつである「水」をテーマにしたとされている彫刻なども見ることができます。後世に守り受け継いでいく貴重なものとして、東京都指定文化財に登録されています。
1875年(明治8年)に建築された拝殿の彫刻群も目を見張るものがあります。地元大工たちが手がけた彫刻は、嶋村俊表を意識して造営されたものと語り継がれており、大胆かつ繊細で美しい姿を楽しむことができます。
境内の東参道付近にある神輿舎には、西東京市指定文化財の獅子頭も見ることができます。1850年(嘉永3年)に制作された貴重な文化財で、雨乞いの獅子として今もなお篤い信仰を得ています。
さまざまなご神徳が得られる「五龍神」も参拝しよう
創建以来のご祭神である尉殿大権現は龍神としても知られ、田無神社の境内のいたる場所で龍の姿を見ることができます。
また、自然のすべては「水・火・金・木・土」で成り立っているという五行思想に基づいて「五龍神」が祀られ、それぞれに異なるご神徳が得られます。
<五龍神のご神徳>
■金龍(本殿内)...運気向上・幸福招来
■赤龍(一の鳥居近く)...勝運向上・成績向上
■白龍(二の鳥居近く)...金運向上・良縁成就
■青龍(土俵近く)...技芸向上・就業成就
■黒龍(北参道近く)...健康増進・家内安全
二の鳥居手前の手水舎は「白龍の水」と呼ばれています。境内深くより汲み上げられたご神水で手を清めて拝殿へと向かいましょう。
田無神社ではさまざまな御朱印を頒布していますが、中でも人気を集めているのが五龍をモチーフにした切り絵御朱印(初穂料1,500円)です。繊細かつダイナミックに描かれた龍は、西東京市在住の切り絵作家・小出蒐先生がデザインしたものだそう。
田無神社の夏の風物詩「七夕てるてるトンネル」
田無神社では6月中旬から7月10日までの約1カ月間、「七夕てるてるトンネル」というカラフルなトンネルが境内に登場します。ご祭神のご神徳に感謝して台風や雨風の災害なく暮らせることを祈念して設置されたもので、開催時期が梅雨にあたることからてるてる坊主が飾り付けられるようになりました。
五龍神と同じ5色に加えて、チェック柄など9種類から選べる「てるてる短冊」(初穂料500円)に願い事を書いてトンネルに結びつけます。こどもから年配の方まで幅広い年齢層の参拝客に人気があり、毎年この時期を楽しみに訪れる人も多いそう。鮮やかな色彩が心を晴らしてくれますように。てるてる坊主にはそんな想いが込められています。
参拝後はコーヒー屋台でほっとひと息
田無神社の境内には、田無町に拠点を構える小さな喫茶店「田無なおきち」が営むキッチンカーが週末を中心に出店しています。レトロな佇まいが神社の雰囲気にぴったり。田無神社の神聖な水と南部鉄鍋で丁寧に手煎りした豆を使って淹れるコーヒー(550円)は酸味と旨みのバランスが絶妙です。
豊かな自然に包まれた境内で、参拝後のコーヒーブレイクを楽しんでみませんか。
※開門時間、授与所・御朱印受付時間、初穂料等は変更になる場合がございます。