LINEで送る製麺機との出会いが人生を大きく変えた
今から約６年前、それまで会社勤めをしていた店主の江上武裕さんは、仕事にやりがいを見出すことができず脱サラを決心した。最初は通販のビジネスを手掛けたていたが、なかなか上手くいかず悩んでいたという。「思い切って好きなことをやろうと思ったんです。もともと趣味で手打ちうどんを作っていたのもあって、うどん屋が良いかなと」。さすがに１から10まで手打ちで大量生産するのは難しいと考え、まずは製麺機を探し始めるところからスタートした。すると、意外なところにその後の人生を好転させる運命的な出会いがあった。
「大和製作所という有名な製麺機メーカーがあるんですけど、そこの無料お試し会で食べたうどんがすごくおいしくて。色々話を聞くと、出汁のとり方からすべて教えてくれるうどん学校があるということで、早速通うことにしました」。うどん学校で学んだ後、すぐに自宅のキッチンを業務用に改装し、店を始めた。「製麺機に出会ってから、本当にすべてがトントン拍子に進みましたね」。独立店舗は持たず、現在も自宅兼店舗のスタイルでマイペースに続けている江上さん。好きなことをして生きていく理想の形を手に入れることができたのだ。
学生のお腹を満たすボリュームと価格の安さ
「うどん屋 武」の客層は学生が多い。そのほとんどが一橋大学の運動部の学生で、アメフト、サッカー、ラクロス、バレーボールなど運動部の部員が練習前や帰り道に腹ペコ状態でやってくる。「学生のお腹を満たしてあげないといけないから、うちのうどんは量が多いんですよ。並盛りで450g、大盛りは750gありますからね。価格も1,000円以下に設定しています」。さらに、ほとんどのメニューは大盛り無料で、肉増し・野菜増しなどのリクエストにも対応してくれるというから驚きだ。もちろん、量が多くて食べきれない人は自由にシェアしても構わない。「家族連れのお客さまは、よく大盛りを１つ頼んでお子さんと一緒に食べたりしていますよ」。そうした柔軟な対応が喜ばれ、一度訪れるとリピーターになる人が多いという。
店主のアイデアが光る唯一無二の創作うどん
店のすべてのメニューは、夏の暑い時期は冷やし、冬の寒い時期はかけうどんに変更される。通年で出されているメニューは現在４品だけだそうだ。「特に人気のあるものは変えずに出していますが、それ以外は毎年違うものを出すようにしています。メニューは自分で考えた創作うどんで、オーソドックスなものはほとんどありません」。確かに、メニュー表を見ていると、ジェノベーゼうどんやカルボうどん、あさりバターうどんなど、ほかでは見かけないようなうどんが数多く並んでいる。中でも最近、特に人気があるというのが冬季限定の「豚バラ角煮うどん」。台湾のソウルフード魯肉飯（ルーローハン）から着想を得て、しっかり香辛料を効かせた豚の角煮をご飯ではなく麺に乗せた創作うどんだ。雑誌でも紹介されるなど、店の名物メニューとなっている。
また、年間通して不動の人気を誇る「豚キムチゲつけうどん」も店主の創作が光る逸品。コチュジャンをベースにした自家製の辛味噌にうどんの出汁を混ぜて作られたつけ汁は、口に入れるとまず甘みを感じ、次にじんわりと辛さが広がる。豚バラ肉の脂と白菜の旨みも加わって、パンチがありつつも深みのある味わいだ。「もとは夏限定のメニューだったんですけど、これだけを食べに通ってくれるお客さまもいて。そうするとメニューから消してしまうのは申し訳ない気がして、結局１年中出しています」というのも頷ける、まさに癖になる美味しさ。ちなみに辛さはノーマル・中辛・大辛と３種類から選べるが、ノーマルでもじゅうぶん辛く、辛いもの好きの女性などにも喜ばれるのだそう。
うどんを頼むと無料でついてくるデザートは、コーヒーゼリーの他に羊羹、わらび餅などがある。何が出るかはその時のお楽しみ。
個人経営の店だからできることをマイペースに続けていきたい
「うどん屋 武」の創作うどんは、各メニューに具材がふんだんに使われていて、原価が高くつくうえに仕込みにもかなり時間がかかる。スマートさが重要視される世の中の真逆を行っているように思うが、そのスタイルは今後も崩さず続けていきたい、と江上さんは語る。「ほかにはないものを作っていきたいんです。ここでしか食べられないうどんでお腹いっぱいになってもらいたい。もちろん利益率は度外視ですし、個人経営だからこそできることなんですけどね。無理のない範囲でマイペースに長く続けられたらいいなと思っています」。利益や効率を一切無視して追求する新しい味。店主の"好きなこと"が詰まった創作うどんの数々は、一見ならぬ、一食の価値ありだ。
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