自由な創作を楽しめる陶芸工房
駅近ながらも閑静な住宅地の中にその工房はありました。階段を登り、工房のドアを開けると代表の磯先生が暖かく迎え入れてくれます。
「たびびとの木」は2001年に発足。人間国宝に認定された陶芸家・田中耕一先生の唯一の弟子・本橋功先生がその技術を講師陣に伝えてきました。磯先生は美術大学を卒業後、13年間この工房で陶芸の技術を学び、先代から代表を引き継いでもう10年になるそう。
工房内は電動ロクロが4台と作業台5台の広々としたスペースになっています。会員制の陶芸教室のほか、1日だけの体験コースも用意されていて、誰でも気軽に陶芸を体験できるのが魅力的。
教室の会員コースは、粘土を指先で伸ばして形作る「初級手びねり会員」や、電動ロクロを扱う「初級電動ロクロ会員」、月4回の「レギュラー会員」、のびのびと創作に打ち込める「プレミアム会員」などさまざま。陶芸教室としてはめずらしく、絵付けの講座も行っています。
「まずは1日体験で陶芸の楽しさを知り、入会後に初級会員、本会員とステップアップしていく方が多いです」とのこと。現在は80〜100名ほどの会員が所属していて、ここで陶芸を学ぶために遠方から訪れる方もいるのだとか。
今回編集部は電動ロクロを使って湯呑みや茶碗、皿や小鉢などを作れる「1日レギュラー体験」にチャレンジします。
編集部が電動ロクロの陶芸を体験!
電動ロクロを体験できる「レギュラー体験」は、2キロの粘土を使い、1時間の間に茶碗や湯呑みなどを自由に作ります。その中から最後に気に入った3点を選んでOK。選んだ3つの作品の焼きと色付けの作業は講師の方々が行ってくれます。
赤土や黒土など、たくさん種類のある粘土の中から今回使うのは「白土」。まずは先生が粘土の下準備を行ってくれます。
こちらは「菊練り」といって、粘土を練ることで中にある空気を抜く作業。焼いたときに気泡が膨張し、作品が割れてしまうのを防ぐために行います。粘土が折り重なって菊の花びらのような模様が描かれ、これだけでもすでに芸術作品のよう!
続いて電動ロクロに粘土を乗せ、水をかけて粘土の密度を上げ、扱いやすくする「土殺し」の作業です。
ここからは先生が基本の形づくりを実演してくれます。みるみるうちに美しい器ができあがっていきました。
形を整えながら滑らかに口を広げ、あっという間にどんぶりの完成です。
ここからは編集部が実際に器作りを体験します。
手を濡らして周りの泥をたっぷりと手につけたらスタート。右手の親指を反らせ、グッと粘土に押し込んでドーナツ状に穴をあけます。
続いて器の下側を決める『土取り』。仕上がりに必要な分量を決め、これ以上使わないという部分に指を差し込んでお猪口のような形にします。親指と中指を使って引っ張り上げていきます。
「この後乾燥させ、焼くことで2割くらい小さくなるので、使う分量は少し多めに取っておきます」と先生。
親指と中指でC字を作り、厚みを均一に整えるイメージで持ち上げます。
全体の厚みが整ったら、上部は糸を当てて平らにカットします。糸を差し込んで引き上げると、切り口がきれいに整いました。
ここで湯呑みとして完成でも良いのですが、先生の素敵な見本を見たのでどんぶりに挑戦することに。広げたい部分にコテを当てて形を調整していきます。
先生からは「最初に上の部分を広げ、下はそこに合わせて広げると調整がしやすいです」とアドバイス。
想像以上に力のいる作業で、なかなかすぐには広がりません。
上部が程よい広さになったら、コテを斜めに当てて内側の段差をなくしていきます。
「上手ですね!ワキが締まっていて、姿勢もすごくいいです」と先生は教えながらたくさん褒めてくれました。
先生に形を微調整してもらったら、『土取り』をした部分に糸を入れ、器をロクロから切り離します。糸はなるべく平行に入れるのがコツ。
立派などんぶりが完成しました!
「通常の体験では、1つ目の作品をそばで教え、2つ目以降は自由に楽しんでもらうようにしています。もちろんわからないところはすぐに聞いてもらって大丈夫です」と先生。
しっかりと技術を教わりながらも、自由に創作する楽しみも与えてくれます。
最後に好きな釉薬の色を選びます。体験コースで選べるのは写真の左上から、瑠璃、空色、黄瀬戸、石灰、天目、織部の6色です。編集部は深い緑の織部をセレクトしました。
陶芸は目の前のことに集中できる至福の時間
工房の焼き窯も見せていただきました。乾燥させた作品は800度の設定で一度素焼きをした後、1200度の高温で本焼きを行うのだそうです。
1日体験コースは色を決めるところまでで終了ですが、今回は特別に色付けの作業も見せてもらいました。赤い煉瓦色のように見えるこちらは「天目」の釉薬で、仕上がりは黒に近い色になります。
焼き上がった器を真下に向けて沈め、内側を真空にすることで引き上げたときに釉薬がきれいに広がります。
奥には粘土と釉薬の組み合わせ見本がたくさん並べられていました。工房には現在10種類以上の粘土と12種の釉薬があり、その組み合わせや形を工夫することでオリジナリティあふれる作品が生まれます。
小学生から老齢の方まで幅広く訪れるという「たびびとの木」。これからどんな方に陶芸を始めてほしいか、磯先生に尋ねてみました。
「老若男女どんな方でも大歓迎です。陶芸は目の前の作業に集中でき、他のことが目に入らなくなるので、集中した後にとてもスッキリできるんです。達成感も得られますし、普段忙しい人ほどやってみてほしいと思いますね」と教えてくれました。
体験から約1ヵ月後、編集部のもとに焼き上がったどんぶりが届きました!
今回は取材に伺ったスタッフ全員が電動ロクロを体験させていただきました。集中力の高まりやなかなかすぐにはうまくいかないもどかしさもありながら、何より純粋にものづくりの楽しさを味わうことができました。皆さんも「たびびとの木」で夢中になれるひとときをぜひ体験してみてくださいね。
※価格はすべて税込み
※体験内容は変更になる場合がございます。
※新型コロナウイルス感染防止対策により、営業時間等が変更になる場合がございます。