「永田珈琲倶楽部」は小平で開業しておよそ50年の老舗。現在、小平駅南口に4店舗、北口には自家焙煎の工房を持っている、地元でおなじみのコーヒー専門店です。
編集部が伺ったのは、小平駅南口ロータリーすぐ脇にあるグリーンプラザ2階の「永田珈琲店」。店内はコーヒーの香りに包まれ、木の温もりが優しい空気を紡いでいました。
豆の種類・焙煎方法・挽き方によってコーヒーの味わい方は無限!
今回講師をお願いしたのはオーナーの永田登巳江さん。オーナーご夫婦はコーヒーを淹れることはもちろん、「永田珈琲倶楽部」の各店で使用する豆の焙煎も担当されています。
おいしいコーヒーを淹れるには、まずはコーヒーのことをよく知ろう! ということで、さっそく同フロアにある「こもれび店」に移動して、コーヒーにまつわるアレコレを聞いてみました。
最初に永田さんが用意してくださったのは、大きさや色の違った豆。
編集部「こちらはずいぶん白っぽい豆ですね」
永田さん「これは生豆といって、焙煎する前のもので、"コーヒーの木の果実"そのままの状態。同じ生豆でも大きさがずいぶん違うでしょう。左がドミニカ、右がモカという種類です」
コーヒーの木は赤道を中心として北緯、南緯それぞれ25度にまたがった「コーヒーベルト」と呼ばれるゾーン、その中でも高地にある場所で生育します。世界78カ国ほどで生産されていますが、基本的に保存のきく「生豆」の状態で国内に輸入されるそうです。 豆には等級が定められていて、同じ種類でも高い品質のものほど生産量が少ないため「コーヒーピラミッド」と例えられます。永田珈琲ではピラミッドの上層にあたる「スペシャリティ」と呼ばれる等級以上の豆を使っています。高いランクの豆ほど味に雑味がなく、また冷めたときに焙煎の技術の善し悪しがよくわかるのだそうです。
永田さん「これは同じ豆だけど、焙煎の仕方が違うもの。右側のほうが色が濃いでしょう」
焙煎にかける時間は30分程ですが、その長さや温度を調整することで同じ豆でも大きく味が変わってくるそうです。
「これはもっと分かりやすく、ずいぶん色が違うでしょう。右が長い時間焙煎した豆で、左が短い豆。焙煎の仕方によって、こんなに違いが出るんですよ」と永田さん。 コーヒーの味は、豆の違いはもちろんですが、この焙煎の具合によって大きく変わってくるのだそう。もちろん豆の特性によっても相性がありますが、どの豆を使っても深く炒れば苦みとコクが深まり、浅いローストなら酸味が引き出されるのだとか。豆を選ぶときには、焙煎の度合いにも注目してみると面白いですね。
りえさん「ちなみに店頭でコーヒー豆を買うときは、どこを基準に選ぶと良いのですか?」
永田さん「店頭では、豆の大きさにばらつきがないかをチェックすると良いですよ。サイズがそろっていれば、きちんとセレクトされた豆を使っていることがわかります。ただ、ブレンドはいろいろな種類の豆を混ぜてつくるのでわかりにくい。だからストレートの豆で見るようにしてくださいね」
りえさん「粒まで見られるお店では注意して見てみます! ほかにも注意するところはありますか?」
永田さん「焙煎すると、そこから劣化が始まります。豆を買うときにはいつ焙煎したかを確認して買うようにしましょう。一番おいしいのは焙煎して2〜3日経って豆からガスが抜けた頃。袋に空気が入ってパンパンになっていると古そうに感じてしまいますが、実はそれは豆から出たガス。新鮮な証拠なんですよ」
購入してきたら密閉できる瓶や缶で保存。コーヒーは匂いを吸着しやすいので密閉しておくことが大切なのだとか。また、量が多いときには冷凍庫で保存してもOK。その場合には、淹れるときに必要な分を取り出したら、しばらく常温に置いておいてから淹れると良いそうです。
編集部「豆の挽き方は味にどう影響が出ますか?」
永田さん「豆を挽くミルには通常目盛りがあって、この目盛りによって粗さを調節するのですが、粗ければ軽く、細かければ濃いコーヒーを淹れることができます。どの豆も中挽きが基準になりますが、その日の気分やシチュエーションなどにあわせて変えるのも良いですね」
なるほど、同じ豆でも色々な楽しみ方ができるんですね!
最後に豆の種類別に特徴を教えていただきました。
・ブラジル:中深程度の焙煎で苦みを楽しむのに良い豆
・キリマンジャロ:やや浅めの焙煎で酸味と香りを一緒に楽しめる
・スマトラ・マンデリン:豆自体にしっかりと味があり、強めの焙煎で深い苦みとコクを楽しむのに向いている
・モカ:個性の強い豆で「モカ臭」と呼ばれる独特の香りを持つ。浅煎りのイメージが強いが、中煎り程度にしたほうがおいしく飲める
永田さん「酸味系の代表は『キリマンジャロ』、苦み系の代表は『マンデリン』。まずはこの2つでどちらが好みかをチェックして、キリマンジャロが気に入れば酸味系をいくつか試してみる。お店の人に相談すれば好みの系統のものを選んでくれますから、そこからまた選んでいけば好みの味に近づいていけると思いますよ」
豆の種類、品質、焙煎、挽き方。コーヒーには無限の組み合わせがあるんですね。いやぁ、深い!タメになる話の連続に、りえさんも深くうなずきながら聞いていました。
決め手はお湯を入れるタイミング! おいしいコーヒーの淹れ方を体験
好みの味を見つけ出すことができたとしても、上手に淹れることができなければせっかくのおいしい豆も台無しです。 ということで、ここからはおいしいコーヒーの淹れ方を教わりましょう! 今回はドリップ形式。紙を使ったこの方法は、一般の人にも馴染みのある淹れ方かもしれませんね。
フィルターは底を手前に、サイドを奥に折り、ドリッパーにセット。コーヒーの粉は1人前で15グラム程度。何人か分を一緒に淹れる場合は人数分より少し減らすか、粗めに挽いて量は15×人数分用意します。 お湯の温度は約90度。一度沸騰させてから火から外し、少し冷ましたお湯を使います。また、お湯は2回に分けて注ぎます。1度目は豆を蒸らすため。そして2度目でコーヒーを抽出します。 まずは先生にお手本を見せてもらいました。
1投目は粉の中心からお湯を注ぎ始め、ゆっくり"の"の字を描くように回し入れます。
このときのお湯の量は、サーバに数滴落ちる程度。豆全体にお湯が行き渡ったら、一旦注ぐのを止めて蒸らします。
粉が空気を含んで持ち上がってくるまでガマン、ガマン...。
よく見ていると、膨らんできた粉が一度落ち着き、少ししぼむタイミングがあります。それが2投目を入れる合図。ただ、これを見分けるのは難しいそうなので、膨張が止まったのを確認したら一呼吸入れて2投目を注ぎ始めると良いのだそう。
2投目を注ぎ始めると、またふっくらと粉が膨らんでいきます。
先ほどと同じように、ゆっくりと"の"の字を描きながら回し入れます。このとき注意したいのは、中心から三分の二までの範囲でお湯を注ぐこと。端まで注ぐと、お湯がコーヒーの粉を通らず、直接フィルターから下に落ち、味が薄くなってしまうそうです。カップ1杯が約150cc。これを目安にお湯を注いでいきます。
ゆっくりと回し入れると、フィルターからあふれんばかりに膨らんでいますね。
注ぎ終わったら、コーヒーがサーバに落ちていくのをじっくり待ちます。
サーバの目盛りが人数分のところまで抽出できたら、ドリッパーを外します。 このとき、全部お湯を落としきらず、フィルターの中に少し残っているタイミングで外すことがポイント。最後まで落としきってしまうと雑味が出るそうです。ただ、あまり早くに上げすぎると今度は浅くなってしまうので、タイミングを見計らうことが必要なのだとか。
ドリッパーを外したら、カップにコーヒーを注ぎます。カップはコーヒーの美しい琥珀色がよくわかるよう、内側が白いものを選ぶと良いそうです。
カップに入れ終わると、とっても良い香りが部屋全体に広がっています。
「コーヒーは蒸らしが90%。蒸らしが成功すればおいしく淹れられたも同然です。逆に蒸らしが上手にできないと修正がききません。蒸らしと2投目を入れるタイミングだけしっかり覚えれば、いつでもおいしいコーヒーが味わえますよ」と永田さん。
では、さっそくりえさんがチャレンジ! コーヒーは好きだけれど、自分で淹れるのは初体験。緊張の一瞬です。先ほど見せて頂いたお手本のように、上手に淹れられるでしょうか!?
ゆっくり、ゆっくり。少しずつお湯を注ぐのが意外と難しい......。真剣な表情で渾身の一杯!
先生にアドバイスをもらいながら、はじめて自分で淹れたコーヒー。いい香りがして、とってもおいしい♪ 上手に淹れることができて大満足の様子。 と、ここで編集部のメンバーから容赦ないひとことが。
編集部「じゃあ、先生の淹れたコーヒーと飲み比べてみましょうか?」
本当に味の違いはあるの? コーヒー飲み比べ!
急遽始まった飲み比べ企画。このまま「おいしかった!」で終わらないのがぐるっとプラス編集部です......。
香りは、先生のコーヒーも自分で淹れたものも良い香りがしています。しかし、実際に飲んでみると......。
「あれっ......」先生の淹れたコーヒーはコクがあるのに、すっきりとキレのある味わい。自分で淹れたほうは、ちょっと酸味が強くて雑味があるように感じます。2投目を入れるタイミングが難しかったのですが、少しのタイミングの違いで、こんなに味が変わってくるものなのですね。
代わるがわる飲み比べをする編集部メンバー。口々に「あっ、違う」という声が......。 うーん、コーヒーマスターへの道はまだまだ遠いようです。
でも、普段何気なく飲んでいたコーヒーが、こんなに奥深いものだということがより実感できました。そして、これを機会にりえさんもコーヒー道にハマってしまいそうな予感♪
「初めて淹れたにしては上手にできていますよ、大丈夫! 味の違いはちょっとしたタイミングやお湯の温度など、本当に微妙な差で生じるもの。何度も淹れているうちに、そのブレがなくなってくるんですよ」と永田さん。 りえさん「もっともっと練習して、いつかは先生が淹れたコーヒーに負けないぐらいおいしいコーヒーを目指します!」
永田珈琲倶楽部では、各店で豆の販売も行っています。お店で飲んで気に入った味があれば、買って帰ることもできます。また店内でカウンターに座れば、ドリップの様子を見られるので、カウンターでコーヒーを淹れる様子を眺めてみるのも興味深いですよ。
ちなみに、カウンター奥にずらりと並んだ色とりどりのカップ。永田珈琲では、オーダーした人のイメージに合わせてカップを選んで提供しているそう。どんなカップが出てくるのか、そんな楽しみ方もできるのが嬉しいですね。 永田珈琲倶楽部でコーヒーを飲んで、本格派の味を堪能したら、今回紹介したコーヒーの淹れ方を自宅でチャレンジしてみてください。
※本記事の内容は2016年3月11日に公開したものです。