遠方からでも足を運びたくなる店

実はこの日、店に着いたのは16時半過ぎ。店内の棚はすでに空きが目立つ状態だった。そしてお話を伺っている間にもどんどんと訪客の手に渡り、残る商品はわずかになっていった。

池袋線「東久留米」駅と新宿線「花小金井」駅の中間地点。どちらの駅からも徒歩だと30分ほどかかる。2台分の専用駐車場があり、バス停からも近いというものの、決して足を運びやすいとは言い難い立地。周囲に目立ったランドマークがあるわけでもない。それでも、取材で滞在した1時間弱の間にもひとり、またひとりと途切れることなくパンを買い求める人が訪れる。この店を目的に訪れている人が多いということだろう。この場所で開業して13年目という歴史も、ファンの多さを物語っている。

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不摂生で不調だった人生が一転

オーナーを務める平塚さんは地元出身。前職はコンピューター系の会社で11年勤務していたという。

会社員時代は忙しさもあり、食に興味がなく、ちゃんと食事をとっていなかったという平塚さん。「体調が優れず不調を自覚している。それなのに病院に行っても特別何処か悪いわけではないと診断される。そんな時期が続いていたんです」。

食の大切さに気がつき、食生活を見直すようになったのにはひとつの出来事があったという。「実は訪問販売で高麗人参を売りに来た男性が、体に良くない食べ物もあるんだよと教えてくれて。高麗人参は高かったんですがつい買ってしまったんです(笑)」 この部分だけを切り取るとちょっと心配になってしまいそうなエピソードだが、平塚さんにとってはこれが人生の転機になった。 それからは食生活に気をつけるようになり、自炊に切り替えてからはすこぶる体調が良くなったという。そう考えると、不調続きで悩んでいた平塚さんにとって食の改善のきっかけをくれた高麗人参は高い買い物ではなかったのかもしれない。

食べ物に興味を持つようになった平塚さんが、今後の人生について考えていた時のこと。ある雑誌で特集されていた横浜にある天然酵母パンの店が目に止まる。脱サラをして開業したというオーナーの話にも興味を惹かれてパンを買いに出かけ、その店のパンのおいしさに衝撃を受けたという。そして何度か通った末に弟子入りを志願。タイミングよく受け入れてもらえることになり、退職を決意したという。

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天然酵母に魅了され、パン職人の道へ

弟子入りした店は有名店。デパートなどにも店舗を出しているため、休みなく働きづくめ。深夜1時に店に行き、仕込みをする。遅くなると夜の10時ごろまでかかるときもあったといい、平塚さんが想像していた以上にはるかに厳しい世界だった。「体に良いものを作るためなのに、慣れるまでの最初の3ヵ月は死ぬかと思いましたね」と笑う。 3年間仕込みを担当して徹底的に学んだのち、新たなベーカリーに修業の場を移す。レストランにも卸し1日にバゲットを数百本も焼き上げる忙しい店だった。こちらでも3年間、仕込みから窯まで携わり一通りの技術を学んだのちに、念願の店をオープンした。

店には平塚さんの原点でもある「自家製酵母」を使ったハード系パンも複数並ぶ。酵母は干しぶどうから起こしたルヴァン種。ほんのりとした酸味、モチモチとした食感が特徴だ。HIRATSUKAでは開業前に起こした種をずっと継ぎ足しながら使っているという。温度管理をしっかりしていれば安定した発酵をしてくれるのだとか。 開業当初は土地柄もあり、自家製酵母パンの味わいが受け入れられるか不安もあったというが、今ではこれを目当てに通ってくれる常連さんも多いという看板商品だ。13年間の思いが詰まった酵母の味わいは、かつての平塚さんのように多くの人を魅了しているのだろう。

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ハード系から惣菜パン、焼き菓子まで、魅力的なラインナップ

ハード系の自家製酵母パン以外にもラインナップは多彩。もっちりとした山食、リュスティックやカルツォーネをつかった惣菜パン、デニッシュや菓子パン......。常時50種程度は焼き上げている。パンの種類が最も多く並ぶ11時半ごろが狙い目だ。

身体の不調を食生活の改善で治した経験から、安全でおいしいパンを作ることに砕心している平塚さん。老若男女、毎日食べられる本物のパンを提供したいと日々研鑽している。ショートニングやマーガリン、保存料や添加物は一切使用せず、カスタードクリームやカレーなどのフィリングも丁寧に自家製。体に良いパン作りに丁寧に向き合っている。

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きめ細やかな心遣いも愛される理由

店内で過ごした約1時間。この店がこの場所で13年愛されてきた理由が見えてきた。自家製酵母パンをはじめとした魅力あるパンが並んでいることはもちろんだが、パンのそばに添えられたPOPにもぜひ注目したい。商品名の書かれたプライスカードには簡単にそのパンの紹介が書かれているが、それと別にそのパンの特徴やおすすめの食べ方がイラストを添えて記してあるのだ。 この手描きPOPは平塚さんの奥様が書いているもの。そこからはパンに対する深い愛情が伝わってくる。

また、棚の片隅にはスライスされた食パンやバゲットが置かれていた。取材の途中にもスライスされたパンを受け取りに来る常連さんが数組。枚数や厚さも希望に合わせて事前に準備してあった。毎日食べるパンだからこそ、細やかな希望に応えてくれるのはありがたい。

棚に並んだパンがお客さまの手に渡り、食卓にあがる。その光景が明確に見えていることが形となって伝わって来る。きめ細やかな心遣いも、多くの支持を得ている理由なのだろう。

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