靴を脱いでから店の中へ。自宅のように居心地の良い空間

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店があるのは2階建てハイツの一角。軒先で風に揺れる提灯は、まるで駅から歩いて来る客を「いらっしゃい」と出迎えているかのようです。

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ラーメン店には珍しく店の中は土足禁止。元ラーメン店だった店舗をほぼ居抜きで使い、カウンター前のタイルや小上がりの床は店主の田中宏樹さんが手を加えているそう。脱いだ靴を下駄箱に入れてから店に入ると、なんだか家に帰ってきたように気分がほっこりします。

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「たなか青空笑店」のメニューは4種。スタンダードの「タナニボ」、自家製ラー油を浮かべた「ぴりりとしたタナニボ」、つけ麺の「ツケルタナニボ」に加えて、約2週間おきに替わる限定メニューが並びます。「さらりとしたタナニボ」は田中さんの気まぐれでやっているそう。

煮干しの豊かな風味をたたえたスープに、すするのが楽しい麺

今回は「特製タナニボ」(1,050円)と「特製ぴりりとしたタナニボ」(1,150円)、「チャーシューご飯」(350円)をオーダーしました。

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まず運ばれてきたのは「特製タナニボ」です。鶏ガラや鶏足のモミジ、豚の背ガラなどをゆっくり煮込んだ動物系スープに煮干しを掛け合わせ、あっさりとした口当たりに仕上げています。巷のラーメンマニアが言うところの「セメント色」をしたスープですが、エグ味を極力抑えつつ煮干しの芳醇な香りを立たせています。

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「特製ぴりりとしたタナニボ」は唐辛子がふわりと香る自家製ラー油を浮かべた一杯。パクチーとライムでちょっと異国の味わいを楽しめます。「パクチーを添えたのは妻のアイデアです。試作品を食べた彼女が『これ、パクチーを入れたら合うかも』って。即、採用しました(笑)」。

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最後は人気のサイドメニュー「チャーシューご飯」。ひと口サイズにカットしたチャーシューにたっぷりのネギとやや甘味のある軽やかな醤油ダレ。ラーメンの繊細な旨味や風味を邪魔しないようにと、あえてニンニクやショウガといったクセの強い味付けはしていません。

すべての素材が緩やかに調和した"優しい味"がテーマ

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店で使っている煮干しはセグロイワシとシロクチイワシの2種です。「セグロだけでは苦みが強く、逆にシロクチだけだと味が淡くなってしまうんです。お互いのウィークポイントを補い合いながら個性を立たせることで、奥行きのある煮干し感を出しています」。

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すするのが楽しくなるツルモチの麺には、タピオカ粉をブレンド。生地を何層にも重ねてから圧を掛けることで、弾むような食感が生まれるのだとか。

自分らしく生きる道を求めラーメン業界へ転身

厨房で黙々とラーメンを作る田中さんは千葉県佐倉市の出身。高校卒業後は旅客機の清掃作業員として成田空港に勤務していました。「社会人になって何年か働いた頃、ふと自分の人生ついて考えるようになったんです。もっと自分が輝ける世界があるんじゃないかって」。生活に密接に関わる仕事ができたらという発想から、衣食住に関わる職業を意識するようになり、やがて飲食業界へ進むことを決めました。

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飲食をやるなら、一番好きなラーメンで自分の活躍できる場所を見つけよう。そう決心した田中さんは、21歳で新宿の「麺屋 武蔵」に入社します。3年かけてラーメン作りのノウハウを習得した田中さんは、次なるステージを求めて阿佐ヶ谷のパスタ専門店に就職。調理や接客はもちろん、教育、売上管理など、店長として9年ほど店舗運営の全般に携わりました。

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その後、縁あって福生市の「らーめん カッパ64(ロクジュウシ)」に入り、ラーメン店開業への準備に入ります。「『カッパ』にいた時はメニュー開発なども自由にやらせてもらいました。実は、当時限定メニューで考案した味がうちのベースになっているんです」。

ラーメン店開業を夢見てから16年後の2021年3月に「たなか青空笑店」を創業。妻の奈実さんとふたりで店を切り盛りしています。「僕らが出会った時、妻はアパレル業界で働いていたんです。で、僕が『将来ラーメン屋さんをやりたい』と言ってたら飲食店でアルバイトを始めて。今では僕よりラーメンにのめり込んでいますよ(笑)」。

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「煮干し系って言うと、エグ味を強めに効かせたものが世間で流行っていますけど、僕が目指しているのは真逆。食べた方が優しくて豊かな気持ちになれるラーメンなんです」と、はにかみながら語る田中さん。思い返せば、どのメニューも田中さん夫妻の柔らかな物腰がそのまま反映されたような優しい味わいです。独創的で丸い印象のラーメン。それが西東京市民の心を掴んだに違いありません。

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