地域のために66年、常識を超えた斬新な運営

桜台駅は両隣を池袋線の練馬駅と江古田駅に挟まれた住宅街。昔から長く住む人々に加えて、その利便性から、子育て世代や学生の姿もよく見かけます。その街の一角に、真っ白な平屋建てがあります。

_Q5A2085.jpg植栽に囲まれ、不思議と静かな空気に包まれたその建物は、昭和31(1956)年から続く、昔ながらの銭湯「久松湯(ひさまつゆ)」です。大規模な温浴施設を除き都内の銭湯では2番目に早く天然の温泉が出たのだと、二代目の風間幸雄さんが教えてくれました。

_Q5A2077.jpg大手メーカーに勤めていたお父さまが「とにかく人に喜んでもらいたい」と銭湯を開業。当時は周囲の反対もあったそうですが、まだ一般家庭に浴室が普及しておらず、何より「地域のコミュニティを作りたい」という熱い想いがあったとか。

以来、身近な銭湯として地域住民に親しまれてきましたが、2014年に「銭湯らしくない銭湯をつくりたい」と風間さんが設計士に依頼し、大規模なリニューアルを実施しました。

_Q5A2080.jpg_Q5A2065.jpg図書館やホテルを思わせる外観もさることながら、内装も銭湯のイメージを覆す、木目調のきれいな造りです。番台からカウンターへの変更は1985年。お客さまがより安心してくつろげるよう、常識にとらわれない運営を引き継いできました。

自然あふれる解放感、プロジェクションマッピングの上映も

受付横の暖簾をくぐると、女風呂の入り口前にある中庭の池には金魚が、男風呂の前の中庭には亀がいました。

_Q5A2073.jpg脱衣所から浴室内にかけての壁はガラス張りで、シャワーを浴びる背中が見えます。今までの銭湯にはない、自然光の入る明るく開放的な雰囲気に驚くほど。「雑木林の中の公衆浴場」というコンセプトの通り、緑を感じる工夫が随所に見られました。

hisamatsuyu01.jpg銭湯の中には2階より上を貸しアパートや住居にするところも多いのですが、あえて平屋建てにして天井を高く、広々した空間に。
夜になると天井にあるガラス張りの穴から夜空も見えるそう。銭湯の壁画といえば富士山が定番ですが、久松湯では白いタイルを生かして、なんとプロジェクションマッピングを上映しています。
ただし、プロジェクションマッピングが消える時間帯もあるため、ちょうど入浴時に見られたらラッキーかもしれません。

box1-12[1].jpg

随所に工夫をこらした非日常な癒しの場

「銭湯らしくない銭湯」の工夫は、浴室内や脱衣所にとどまりません。自販機のスペースはさりげなく、あえて生活感を感じさせない空間を意識して設計。ミルクスタンドのサインもおしゃれです。

_Q5A2066.jpgマッサージ機はよく見る黒や茶色の椅子タイプではなく、真っ白で頭を包み込むタイプ。体や頭のケア、リフレクソロジー、アロマやタイ古式マッサージなどのリラクゼーションサロンも併設しています。

_Q5A2054.jpg_Q5A2062.jpg三代目を息子さんに引き継いだものの、取材などの対応は今も風間さんが続けています。都内の銭湯事情にも詳しい風間さんですが、今後、どんな価値を提供できるかは模索中だといいます。

でも次の仕掛けとして、プロジェクションマッピングの第2弾を検討中だと明かしてくれました。お披露目の日が楽しみです。

さすが斬新な造りにこだわっただけあって、2015年にグッドデザイン賞を受賞しました。都内の銭湯としては初めての受賞とのことです。

_Q5A2061.jpgメディアで取り上げられたことで、桜台以外の地域から来るお客さまも増加。平日の日中も絶えず人が訪れ、夜は混みあうことも珍しくありません。比較的すいているのは雨降りの日だとか。非日常な空間でじっくり癒されてみてはいかがでしょうか。