こぢんまりとした店内で温かいおもてなしを

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店先の赤いひさしにはタイ国旗が描かれ、タイ語の文字も見える。入り口にはたくさんの辛そうな料理の写真。「現地からやってきたシェフが腕をふるう本格的なタイ料理店に違いない!」と、つい勝手に想像してしまう。

こちらの「サワディー ちゃお」は、日本のタイ料理店のほか現地でも研鑽を積んだシェフの京牟禮(きょうむれ)さんが2013年にオープンした本格タイ料理のお店。タイ北部のチェンマイなどで食べられている、ちょっとめずらしい料理もラインナップしている。

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20席ほどの店内はこぢんまりしているが、あちこちにタイのポスターやお客さまの笑顔の写真、装飾品などが並び、にぎやかでアットホームな雰囲気。路地裏にある隠れ家のような店内には、そこはかとなく家庭的で温かい空気が流れている。聞けば、こちらのスタッフは全員、訪れる常連さんの食材の好みなどを把握していて、お客さまによって使用するグラスや料理の盛り付けを変えるなど、要望にはだいたい応えられるようにしているのだとか。

メニュー以外にも、「ハーフサイズにしてほしい」「この料理とこの料理をセットにしてほしい」などのリクエストにもできる限り応えてくれるそう。予算を伝えればおまかせコースも作ってくれる。

本場クオリティのじっくり煮込んだ北タイカレー

日本人にとってタイカレーといえば、ココナッツミルクを使ったクリーミーなものをイメージしがち。もちろん、こちらのお店でもグリーンカレーやレッドカレーを用意しているが、実は一番のおすすめはココナッツミルクを使わずに作る"北タイカレー"なのだ。

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「豚肉をじっくり煮込んだ北タイカレー(ゲーンハンレー)」(単品1,050円、ライス付1,280円)。京牟禮さんに聞くと、タイの北部で親しまれている郷土料理だそうで、ゴロっと大きな豚肉が入っているボリューム満点のカレーだ。見た目からはこってりした味を想像してしまうが、スッと箸が入るほど柔らかく煮込んである豚肉のコクに、トマトの酸味、ショウガの清々しい刺激が効いて、意外なほどさっぱりと食べられる。しかも、油を一切使っていないのでとてもヘルシー。レモングラスなどのハーブが辛さの奥に独特の深みを加えていて、一度食べるとやみつきになるお客さまも多いそう。

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定番人気の「鶏肉とナスのグリーンカレー(ゲーンキョウワーン)」(単品750円、ライス付1,000円)は、ココナッツミルクのしっかりとしたコクと甘さ、ハーブの風味の後から、唐辛子の刺激がじわじわと押し寄せる濃厚なカレー。香り高いジャスミンライスと一緒にいただく本場さながらの味に、「ここのグリーンカレーは他の店のとは一味違って、クセになるくらいおいしい」と足しげく通うファンもいるのだとか。

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ココナッツミルクのチキンカレーに中華麺を入れた「カレーヌードル(カオソーイ)」(1,000円)は、タイ北部のチェンマイ周辺でよく食べられているポピュラーな料理。鶏肉の旨みにココナッツミルクを合わせたコクのあるスープと茹でたバミー(中華麺)、上にアクセントとしてミークロープ(揚げ麺)をのせ、2つの食感が楽しめる。さらにレモンを絞って爽やかに味変するなど、自分なりにアレンジして味わえるのも魅力だ。

現地の味とクオリティ。タイ人のお客さまも絶賛

京牟禮さんがタイ料理のシェフを目指したのは、まだ10代のころ。漠然と「料理人になりたい」と考えていた時、ふとしたきっかけでタイ料理に出会い、鮮やかな色彩とデザイン性の高さ、味覚のインパクトにすっかり魅了されてしまった。そこで、10代でタイ料理店に入り修業を始めたそう。

20歳を過ぎたころには、タイ大使館で行われるパーティーの料理を任されることになり、シェフとしてのスタートを切った。その後は日本のタイ料理店で働きながら、現地の味を確かめるために何度もタイへ足を運んだという。

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テーブルにはタイ国民から絶大な人気のプミポン前国王夫妻のプレートが飾られている。

その後、「長男が小学校に入るまで」と期限を決め、京牟禮さんは家族で現地へ移住することに。3年間をタイ北部の街で過ごした。この間、現地へ身を置きながら、味覚や感性、感覚をパワーアップさせる、という作業を繰り返したそう。京牟禮さんいわく、「自分の中に持っている感性と現地の味との間で自問自答を繰り返し、舌や身体に染み込ませて自分のものとしていくことができた」という。
こうして3年間のタイ遊学と日本のタイ料理店での勤務を経て、現地で得たものをひっさげ「サワディーちゃお」をオープンした。

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京牟禮さんの愛息、次男の翼君は学校から帰ると閉店までの時間をこの店で過ごす。常連さんに知らぬ人はいない看板息子だ。

京牟禮さんにとって、料理は自己表現。
「料理は言葉を必要とせずに表現できる手段のひとつ。一皿に作り手すべての愛情や魂を込めて、ひとりひとりのお客さまの前にお出ししています。作り手の分身とも言える料理を、お客さまに味わっていただき評価してもらう。そうやってお客さまとの対話を繰り返す日々の中で、リピーターとして何度も通ってくださる方への感謝の気持ちしかありません」と語る。

そんな京牟禮さんの作るメニューは、現地に身を置いて培った感性やセンスをベースに作り上げられる、現地そのものの味。この料理に惚れ込んで通い続ける常連さんが多いのもうなずける。あまりに本場の味に近いので、何年もこの店に通うお客さまの中にも、京牟禮さんがタイ人だと思い込んでいる方がいらっしゃるとか。店に来るタイ人のシェフやお客さまからは、「自分の料理よりおいしい!」とお墨付きをいただいたそう。

現地で鍛え上げてきた自信と確かな腕、磨かれた味覚とセンスで作り上げる珠玉のメニューは、今日も田無の街角で愛されている。

※価格はすべて税込
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※写真、記事内容は取材時(2019年1月16日)のものです。