雑居ビルの奥に広がる、おしゃれなインテリアのタイ料理店

雑居ビルの階段を上って2階へ行くと、廊下に金色の像がたたずんでいる。その隣に「ロスオーチャー」と書かれたドア。こちらがお店の入り口なのだろう。恐る恐るドアを開けると、意外にもおしゃれなインテリアで落ち着いた空間が広がっていた。

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「いらっしゃいませ~」と迎えてくれたのは、店主の並木勉さんとペンナパーさんご夫妻。大きな窓から光が入る明るい店内は20席ほどの小さなスペースだが、タイから持ち帰ってきたという仏像や装飾が上品に飾られていて、おふたりの夢や愛がたくさん詰まっている。

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駅前の雑居ビルの2階にこんなおしゃれなタイ料理屋さんがあるとは......。並木さんに聞くと、女性のお客さまが8割近くを締めていて、1人で訪れる方も多いのだとか。表には小さな看板しか出していないが、口コミでおいしさが伝わり、ジワジワとお客さまが増え続けているそうだ。

甘・辛・酸のバランスが絶妙! 本場の味を日本にお届け

調理を担当するのは奥さまのペンナパーさん。取材時にはペンナパーさんが華麗な野菜のカービングを披露してくれた。

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彼女が育ったタイの中央部、バンコクの味を忠実に伝えている。タイは地域によって料理が異なるそうで、東北部のイサーン料理は辛みと塩味が強い味、南部はスパイスを多用した辛いマレー系のシーフード料理など、それぞれ特色がある。中央部のバンコクは辛みや甘さ、塩味と酸味がバランスよく、きれいな味つけ。宮廷料理など美食がそろう街でもある。「ロスオーチャー」では、タイから取り寄せる調味料などを使ってそんなバンコクの味を提供している。

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青パパイヤの細切りサラダ「ソムタム」(1,200円)は、東北部でもよく食べられている料理だが、バンコクではパームシュガーを入れて甘みをプラスするのが特徴。ペンナパーさんは、唐辛子やニンニクを軽くすり鉢で潰し、ナンプラーやパームシュガー、レモン汁などでソースを作ってから野菜を入れ、さらに叩きながら和える。

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レモンの酸味と唐辛子の辛さ、パームシュガーの甘さがバランス良く、ここへ砕いたピーナッツを加えるのもバンコク風だとか。干しエビの旨みとピーナッツの食感が楽しい一品。

ほかにおすすめのお料理をお願いしたところ、定番のトムヤムクンに米粉の細麺を入れた「トムヤムクンラーメン」(1,200円、ハーフ750円)を紹介してくれた。甘辛くてコクがあるトムヤンクンスープが、細めの麺によく絡む。ランチでも大人気の看板メニューだ。

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さらに、ソフトシェルクラブのカレー炒め「プーパッポンカリ」(1,550円)もぜひ味わっておきたい。粉っぽくならずカラっと揚がったソフトシェルに、卵と牛乳でやさしくしっとり仕上がったカレーソースがマッチする。食感を楽しむために野菜の切り方にもこだわっているという。常連客からは、バンコクにある元祖プーパッポンカリの店よりもおいしいと評判なのだとか。

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おいしい料理を通じてタイの文化を日本に広めたい

奥さまのペンナパーさんは、日本に来た当初は料理の道へ進むつもりではなかったという。マーケティングを学ぶために留学生として日本へやってきて、並木勉さんと出会って結婚。勉さんの地元であるひばりヶ丘で暮らすようになった。そんなとき、勉さんの親戚が所有する駅前のビルの2階が空き、「タイ料理店を出さないか」と誘われたのがこの店を始めたきっかけなのだとか。
当時、ひばりヶ丘や東久留米には本格的なタイ料理が食べられる店がなく、幼いころから料理が趣味だったこともあり、「バンコクの実家の味を日本の人にも知ってもらいたい」という思いで2010年にこの店をオープンした。背景には「食を通じてタイの文化を広めたい」という思いもあったという。

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ペンナパーさんには料理上手な叔母さんがいて、タイの宮廷料理も学んだというその叔母さんに料理の手ほどきを受けた。「ロスオーチャー」をオープンした当初は、タイ人の料理人を雇って営業していたが、料理人が変わるたびに叔母さんが来日して店を手伝ってくれたという。
叔母さんと協力して震災などのトラブルを乗り越え、ペンナパーさん自身が料理人としてひとりで腕を振るうことを決意。勉さんも会社を辞め、子育てや家事のサポートをしてくれたそう。息子さんが小学校へ上がって手が離れつつある今、勉さんと2人で毎日店へ立ち、仲良く切り盛りしている。

現在では、タイ料理をレクチャーする料理教室も開催。遠方からもわざわざ生徒さんが訪れるようになったそう。さらに、デリバリーやテイクアウトにも力を入れたいと考えていて、夢が膨らむばかりだ。駅前の雑居ビルに小さな看板を掲げてひっそりとオープンした当初から、並木夫妻が描いていた「食を通じてタイの文化を広めたい」という思いが、徐々に実りを迎えようとしている。

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※価格はすべて税込
※営業時間、販売商品、価格等が変更になる場合がございます。
※写真、記事内容は取材時(2019年7月11日)のものです。