パンというツールを見つけて

"Bakerycafe & Gallery"と銘打っているとおり、Vieillはパン屋にして、カフェであり、ギャラリーだ。

「パンを通していろんな人とつながることができる。僕にとって、パンはいわばツールなんです」。

オーナーの大山哲司さんは開口一番、そう言った。

「行政や企業と組んだりしながら、いろんなものづくりをする方たちとコラボレーションする。そういうことがやりたいから、僕はここでパンを焼いているんです」。

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出版社と組んで絵本作家の荒井良二さんの展示をやったり、練馬区と組んでパンのキャラクターをつくろうとしたり と、大山さんの活動は確かにパン屋の範疇を軽く飛び越えているようだ。

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「以前の職場の先輩が、自分には何も技術はないけれども、人と人をつなげることはできるよ、と言っていたことに感銘を受けて。それまでの僕は何か技術を身につけようと躍起になっていたけれど、そうじゃなくてもいいんだな、と気づかされたんです」。

ものづくりの場に身を置き、人と人をマッチングする。それによって、新しい何かを生み出す。先輩のひと言がきっかけで自分らしく生きていく方法を見出した大山さん。 同じころ、たまたま入ったカフェで出された自家製パンがとてもおいしくて、すぐにそこでパンづくりの修業をさせてもらうことに。

「こういうおいしいパンが、自分の店にもあったらいいなと思って」。

すでにそのときには、現在の店のイメージが明確にできていたわけだ。

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織物作家・shirocoと写真家・坂内敦の企画展『ソラノナカへ』の展示

2年間の修業の間、趣味でつくっていた革小物で手づくり市に出店しては作家たちとつながり、店の一角を借りて彼らの作品を販売させてもらったりと、将来自分の店でやりたいことの試運転を修業先でやらせてもらえたのも幸運だった。

「パンで人をつなぐ」という唯一無二の技術

「あのときにあのおいしいパンと出会ったから、いまのこのかたちになっただけで、正直、パンじゃなくてもいいんです。ただ、ものづくりをする人のひとりとして、自分もいたいから」。

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企画展の際には作家のイメージに合わせたミュージシャンを呼んでライヴをし、大山さんはその日のためのスペシャルなパンを焼く。パンがあることで作家もミュージシャンも宣伝しやすいし、おみやげにもしてもらいやすく、ただ展示やライヴをするよりも広がりが生まれる。まさにパンが打ってつけのツールとなっているのだ。

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そんなパンの肝心な味はというと、もちろん文句ない完成度。最低限の良質な国産素材で、シンプルに焼き上げている。「あかちゃんパン(420円)」を例にとれば、原材料は北海道産の小麦粉(はるゆたか)、沖縄産の塩(シママース)、北海道産のてんさい糖、東京産ホエーの酵母のみという潔さだ。ちなみに同店は、青梅市の牛の乳でチーズを製造する際に出るホエーを使った酵母で「とうきょう特産食材使用店」に認定されている。

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Vieillのパンは決して種類豊富ではないが、それぞれにストーリーが詰まっている。

「この『しあわせなぱん(340円)』は、僕が婚約したときにつくったんです。開店2日目に来店してくれたお客さまと結婚したんですけど、彼女がキリスト教徒だったので、キリストの体を表す小麦と、血を表す葡萄と。そこに、人生そんなに甘くないぜ、というエッセンスとしてコーヒーを混ぜ込みました(笑)」。

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パンひとつの話をとっても、このようにネタは尽きない。だから単純にパンを買う以上の楽しみを胸に、お客さまはここにやってくるのだろう。パン屋にしては、お客さまの滞在時間が非常に長いのも納得できる。

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そうして今日より明日、明日より明後日と、新しい出会いはどんどん増えていく。手に職をもつことへの執着を手放すことで始まったはずなのに、どうやらいつの間にか、大山さんしかできない技術を身につけてしまったようだ。

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