観光のメインスポット・蔵造りの一番街
新宿線「本川越」駅東口からまっすぐ南へ。右手に熊野神社、左手に蓮馨寺がある県道39号線の商店街をしばらく歩くと「仲町」の交差点にたどり着きます。この先「札の辻」交差点までの約450mは、それまでとはガラリと変わった蔵造りの町並みが広がります。「これぞ小江戸!」という建物群ですが、実はこの蔵造りの建物はほとんどが明治時代の建物なのです。
江戸時代、度重なる大火が起きた江戸の町では火災に強い瓦葺きの土蔵が流行り、川越にも土蔵造りの建物がたくさん建てられていました。
明治26(1893)年3月、町の3分の1を焼き尽くすほどの大きな災厄「川越大火」が発生。焼失から免れた建物のほとんどが土蔵造りだったことから、家を失った商家はこぞって土蔵造りに建て替えられたそうです。一番街周辺には現在も30棟以上の蔵が保存されています。
なかでも最も古いのが札の辻交差点の近く、国の重要文化財に指定されている「大沢家住宅」です。寛政4(1792)年築、200年以上前に建てられた商家は他の蔵に比べると装飾は少なく簡素な佇まいですが、壁の厚さは約30cm。川越大火をはじめとした度重なる災禍からも守られてきた建物です。正面2階の格子は「土格子」といって、耐火性を高めるため木材を使わず漆喰で塗り固められたもの。川越大火の町づくりのお手本になった蔵で、現在は民芸品やお土産を販売する店舗になっています。
このように、川越の蔵の多くは店舗や施設として活用しながら保存されています。中に入ると蔵のしつらえが間近にみられるのも、川越の建物探訪の楽しみのひとつですね。
蔵を前にしたら、まずは上を見るべし!
川越の蔵には同じものはひとつもありません。迫力のある鬼瓦や分厚い観音扉など、構成されるパーツは同じでも、意匠には蔵の個性が出ているのです。例えば鬼瓦を見ると、家主の苗字の一字を彫ったものや独特の文様、また鳥除けのような実用的なものまでさまざま。瓦だけでどの蔵かわかるようになったら、もう川越フリーク! そんな楽しみ方もできそうですね。
また、似ているようで少しずつ違う観音扉。こちらも見比べてみると個性があって面白いですよ。
蔵だけじゃない! 川越の西洋建築の魅力
蔵造りのイメージが強い川越ですが、町歩きをしてみると見応えのある西洋建築の建物も点在していることに気づきます。蔵が軒を連ねる一番街で、一際目を引くのはなんといってもこの建物でしょう。
大正7(1918)年、現在の埼玉りそな銀行の前身だった第八十五銀行の本店として建設。築100年を超える国指定の登録有形文化財です。東京駅などを手掛けた辰野金吾の弟子として知られる保岡勝也が設計を担当しており、当時流行していたネオルネサンス様式を採用。3階建ての鉄筋コンクリート造りは当時としては先進的な建物だったようで、2020年まで現役の銀行として活用されていました。
そしてこちらの建物も印象的です。
保刈歯科醫院は現役の歯医者さん。川越で最初のデパートとして昭和11(1936)年に建てられました。建設当初に設置された入口の美しいステンドグラスが、今も通る人の目を楽しませてくれます。
一番街から足を伸ばして
一番街からは少し離れますが、中町の交差点から東へ曲がりひとつ目の信号の目の前に美しいレンガの建物があります。これは140余年の歴史を持つ川越キリスト教会。川越市内にあるレンガ造りの建物の中で一番古く、国の有形文化財に指定されています。
また、近代西洋建築が好きな方なら外せないのが「大正浪漫夢通り」です。ここはかつて銀座商店街と呼ばれ、賑わいをみせた通り。現在も大正から昭和初期にかけて建てられた看板建築や町家づくりの建物など見応えのある建築物が残り、用品店や飲食店、不動産事務所などとして活用されています。
通りの北側にあるのは古代ギリシア建築のドーリア式列柱が並ぶ重厚で印象的な建物。昭和3(1928)年に旧武州銀行川越支店として建てられ、現在は川越商工会議所として活用されている国指定の登録有形文化財です。
川越は幅広い年代の建築物があり、建物探訪しがいがある町です。食べ歩きもいいですが、ぜひ「建物」にも注目してみてくださいね!