建築ファンからも注目を集める小江戸川越の美術館

_Q5A3716_resize.jpg

「ヤオコー川越美術館」は、埼玉県川越市に本社を置くスーパーマーケットチェーン「ヤオコー」が運営しています。埼玉県を中心に185店舗(202311月末現在)を展開している「ヤオコー」は、町の八百屋さん「八百幸商店」として1890年に開業。2012年に創業120周年を記念してこの美術館を開設しました。

_Q5A3717_resize.jpg

散策路と池に囲まれたコンクリートのスタイリッシュな建築は、日本を代表する建築家の伊東豊雄さんが手がけたもので、建物を見に遠方から訪れるファンの方も多いのだとか。道路から続く緩やかなカーブのアプローチで館内へ自然と招き入れられるように設計されています。
今回はスタッフの渡辺さん(写真右)に案内していただきました。

_Q5A3686_resize.jpg

館内に展示されているのはすべて、画家の三栖右嗣さん(1927-2010)の作品。そのため、「三栖右嗣記念館」とも呼ばれています。三栖さんは埼玉県比企郡ときがわ町にアトリエを持ち、ヤオコー創業の地である埼玉県比企郡小川町からも近かったことで縁が深くなったのだそう。

_Q5A3597_resize.jpg

"いのち"をテーマに、あふれる生命の輝きを描き続けた三栖さん。ヤオコーの創業者である故川野トモ名誉会長がこちらの『コスモス』を見て感銘を受け、「家族に本物の絵を観てほしい」と作品を購入したことがこの美術館を作るきっかけとなっています。
美術館の入館料は大人300円ですが、ヤオコーカード会員なら100円引きに。スーパーのお客さまにも気軽に作品を観ていただきたいという計らいです。

光にこだわった展示室で多彩な三栖右嗣作品を鑑賞

三栖さんは油彩、水彩、リトグラフなど、幅広い表現方法で作品を生み出していました。3月と9月の年2回展示の入れ替えが行われるそうで、現在の開催中の企画展では37点の作品を鑑賞することができます。

館内には2つの展示室があり、それぞれ異なる光にこだわった設計がなされています。
展示室1は外の光を入れず、天井へと大きく広がる柱に沿って、湧き上がるような温かみのある照明が印象的。落ち着いた空間で作品がグッと引き立ちます。

_Q5A3583_resize.jpg

「近年、建物だけでなく館内も撮影可能となりました。こちらの柱の照明がとても人気で、撮影をしてSNSに掲載したいという若い方が増えたんです。"映える美術館"とも言われているようなのですが、そういった撮影をきっかけに初めて美術館に訪れたという方や、ここで美術館の良さに気づいたというお声もたくさんいただいています」と渡辺さん。意外な形で若い世代への認知が広がっています。

_Q5A3682_resize.jpg

三栖作品の中でも数多く登場する林檎は単なる静物ではなく、熟したものや地面に落ちた姿が描かれています。自然の中でやがて朽ち果て、新たな"生命"として芽吹いていく様子を想像させてくれます。

_Q5A3589_resize.jpg

隣接する展示室2は天井の円盤を動かすことで外からの光を取り入れ、展示室1よりも明るい空間に。日ごとの天気によっても作品の見え方が異なり、季節の移り変わりを感じることができます。
「実はこちらのお部屋の壁はコンクリートを湾曲させているんです。入り口のスロープ、展示室1の柱やこの天井など、曲線の表現が続いています」。硬い質感のコンクリートを使いながらもさりげなく柔らかな雰囲気が作られています。

満開の桜や生演奏で彩られるティーラウンジ

展示室の奥には広々としたラウンジがあり、ゆったりとティータイムを楽しむことができます。
美術館に入館せずカフェ利用だけでも可能とのことですが、入館料にドリンクが付いて500円というお得なセットも用意されています。

_Q5A3575_resize.jpg

壁面にある500号の油彩『爛熳』は、1996年にヤオコーの本社が小川町から川越に移転する際、特別に描かれたもの。三栖さんと川野会長がヤオコーの未来を語り合いながら生まれた作品なのだそうです。

_Q5A3620_resize.jpg

「晩年の三栖さんは大作の桜を描くことが増えていました。このラウンジにある『爛熳』は、夕方暗くなるほど桜が浮き上がるように見えてきます」と渡辺さん。

_Q5A3647_resize.jpg

ラウンジではヤオコー名物の手作りおはぎ(単品/130円)がいただけます。毎日店舗で一つひとつ手作りされた大きなおはぎは、小豆の自然な甘さが楽しめるこだわりの粒あんです。
人気のドリンクはもこもこミルクコーヒーや、三栖さんの作品をイメージしたさくらティーにアップルティー(いずれも単品/330円)など。『爛熳』を眺めながらお花見気分を味わうことができます。

_Q5A3621_resize.jpg

ラウンジ内にはグランドピアノが設置されており、月に1度演奏会が行われています。
「もともと音楽イベントができるようにと建物が設計されているので、響きがいいのも特徴です。『爛熳』の前で演奏したいというアーティストさんから多数お声がけをいただきまして、演奏会の出演は3年先まで予約がいっぱいなんです」

「ヤオコー川越美術館」はおしゃれな雰囲気ながら、いつまででも長居できそうな心地良さを感じます。アートや建築ファン、観光客だけでなく、近隣に住まうお子さまからお年寄りまで幅広く訪れている、地域に根ざした美術館。130年という長い歴史を紡いできたヤオコーと同じく、これからも愛され続ける存在になるに違いありません。

※価格はすべて税込
※営業時間、販売商品、価格などが変更になる場合がございます。