先代から受け継いだ蕎麦打ちの技術

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外観は壁一面に木板をしつらえた特徴的な佇まい。木扉を開けて店内に入ると、白い漆喰に木版の腰壁をあしらった温かい雰囲気です。すだれや民芸調のモビールなどを効果的に使い、どこか懐かしさを感じさせる空間が広がっています。

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大きな一枚板のカウンターが店中央に鎮座し、その奥には半個室があります。こぢんまりとした店内ながら、ひとりでもグループでもゆっくりと過ごせそうです。

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穏やかな笑顔で出迎えてくれたのは、店を切り盛りする谷田貝信雄さんです。店名の「さいとう」は、2003年に店を立ち上げた初代店主・斎藤さんのお名前から。谷田貝さんのお父さまとの縁があり、店を引き継いで14年ほど経つそうです。

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谷田貝さん自身はもともと和食が専門。専門学校で料理を学び、都内の懐石料理店に15年ほど勤めていました。その後も東京や埼玉の和食店で腕をふるってきましたが、この店を引き継ぐまで蕎麦は未経験。初代「さいとう」の蕎麦に出合ってこの店を引き継ごうと決心。先代から蕎麦打ちを学びました。

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長年の和食経験があったことで、苦労しながらもここまでやってこられたといいますが、「私はこのお店の蕎麦が完成したあとで来ましたからね。先代から教えてもらったレシピを継承しているんです。先代は店を起こしてから、試行錯誤してこの蕎麦にたどり着いたので、相当大変だったと思いますよ」と先代の苦労を思いやっていました。

喉越しの良い蕎麦に香り豊かなつゆが絡む

「さいとう」の蕎麦は北限の蕎麦産地として知られる北海道・音威子府(おといねっぷ)産の石臼挽きです。蕎麦粉8割に対して、つなぎの小麦粉を2割の割合で打つ「二八蕎麦」は細めの手切り。柔らかく香り、つるりと喉越しが心地よい一枚です。
蕎麦つゆのかえしには醤油と三河みりんを使用。1ヵ月ほど寝かせることで角の取れたまろやかさを引き出しています。これに昆布と鰹の厚削りでとっただしを加えて作った蕎麦つゆは風味豊かな味わい。

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海老付天ぷら蕎麦(1,400円)。カラリと揚げた天ぷらはサクサクとした衣が心地よく、目にも美しい仕事が光ります。

蕎麦前に光る、和食職人としての矜恃

谷田貝さんが店を引き継いでから、大きく変わったことがあります。それは夜営業でお酒とともに肴を楽しめるようになったこと。それまでは蕎麦のみを提供していたそうですが、和食職人だった谷田貝さんが自分の経験を生かせるようにと、メニューを充実させたのです。

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川越の市場で鮮魚や旬の地元野菜などを仕入れ、日替わりでメニューを用意。マグロの山かけ(850円)やだし巻き(750円)、板わさ(450円)といった定番の蕎麦前から、天ぷらや焼き物、サラダなどが並びます。この日はカワハギ刺しもメニューに加わっていました。ひとつひとつの料理が主役になるような完成度で、これを楽しみに通う人も少なくないそうです。

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肴に合わせるお酒は全国各地の地酒や焼酎、ハイボールやカクテルまで幅広く揃います。口開けから仕上げの蕎麦まで、杯を傾けながら最後まで堪能できそうです。

「蕎麦屋としてこの店を引き継いでやってきて、本当によかったと感じています。代が変わっても変わらずに足を運んでくださるお客さまもいらっしゃいますしね。先代もたまに顔を出してくれて、『蕎麦がうまくなったね』と言ってもらえるようになりました」と嬉しそうに目を細める谷田貝さん。「これからも人の集まる場所でいたい」と続けます。
隠れた名店が多い"なんつか"エリア。これからもぜひ注目していきたい地域です。

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