住宅地にひっそり。目印は青い表札
新宿線「本川越駅」から徒歩10分ほど。「本当にパン屋さんがあるの?」と少し不安になりながら住宅地を歩くと、やっと見つけた「善太郎」の表札。木の扉を開けると、目の前にパンが並ぶ。3人入ったら身動きができないくらいの小さな店だ。先客が「孫が大好物なの」とシフォンケーキをまとめ買いしていた。そんなにおいしいなら私も......と思ったら、なんとそのお客さんが2台分すべてお買い上げ。店を切り盛りする京子さんが「ごめんなさいね。小さな店だからたくさん焼けなくて」とすまなそうに言う。
そして並ぶパンを見ると、残りわずか!お目当ての食パン2種類、カレーパン、コロッケパン、全粒粉の丸パンを急いで注文した。営業日である水曜日~土曜日の4日間は、日替わりでさまざまなパンが登場するのだが、閉店時間を待たずに売り切れじまいになることも多い。
ありとあらゆる食にかかわる仕事をしてきたという昌治さん・京子さんご夫婦は、京子さんの父親、祖父が洗濯屋を営んできた場所を引き継ぎ、店を始めることにした。
「タパスが人気だったので、フレンチの小皿料理でもやってみようかと思っていたのですが、何しろこの狭さなので十分な客席が作れない。考えた末、パン屋になりました」と昌治さんは言う。
売り場の奥にはオーブンが!壁の向こうの厨房には、売り場との間に置かれた小さな階段を昇って入る。工夫の凝らされたこの小さな厨房で、昌治さんはすべてのパンを作っている。
水曜日はハード系のパンが充実、木曜日はベーグルや卵・バターがたっぷりの「金の山食」、金曜日は2種類の食パンやあんぱんにコロッケパン、土曜日は天板いっぱいに焼かれたシナモンロールなどが登場する。
「普通のことを普通にやっているだけ」
昌治さんにパンづくりについて聞いてみると、「普通のことを普通にやっているだけ」という答えが返ってきた。ご主人、ちょっと気難しいタイプの職人さん?と思ったが、パンを食べてみてわかった。「おいしさがよくわかる舌を持っていて、それをパンに再現できる人」なのだ。
「善太郎」を始めて12年。当初は食事に合わせて食べるバゲットなどのハード系パン、食パン、バターケーキなどの焼菓子だけを販売していたが、お客さまのリクエストに応えるうちにあんぱんやカレーパン、コロッケパンなどがラインナップに加わった。
「禁断のあんパン」は、川越に今では2軒しか残っていないあんこ屋さん「木下製あん所」のこしあんを使っている。なぜ禁断なのかは、「食事パンだけつくると決めていたのに、作ってしまったから」だそう。
ぐっと心をつかまれる商品名!この日はなかった「ふんわり3兄弟」(ちぎりパン)や、「金の山食」(バターたっぷりのリッチな食パン)も名前を聞いただけで食べたくなってしまう。
2種類の食パンを食べ比べ!
京子さんが「うちのパンは袋をあけると、おいしい匂いがするの」と言っていたが、食パンを取り出そうと袋をあけるとフワッとこんがり、甘い匂いがした。「ネジ生」は最もプレーンな、牛乳でこねた食パンだ。シンプルにジャムを塗っても、サンドイッチにしても素材となじむ。「生食」はヨーグルトとバター入りで、リッチな香りがたまらない。全粒粉の丸パンは香ばしくて、そのままでも味わい深いが、ハンバーガーのバンズによさそうだ。
辛いカレーパンが食べたいとお客さまに言われて誕生したカレーパンを、「本当に辛いの?」と半信半疑でかじった。スパイスが効いていて、食べ進めるほどにヒリヒリが増す。大正浪漫夢通りにある老舗肉屋「十一屋」のコロッケがはさまれているのは、その名の通り「食べやすいサイズのコロッケパン」。ほくっとしたジャガイモとパンの甘みがなんとも懐かしい。
パンが売り切れても客足は衰えない。「こういう日ばかりじゃないんですよ」と京子さんは言うが、「今日はもうカレーパンないんですか?」という近所の男性、「ヨガ教室で食パンがおいしいって聞いてきたのに......」という隣駅からやって来た女性の残念そうな様子からすると、常連さんだけでなく口コミで訪れる人も多いようだ。「善太郎」を訪れるなら、電話で予約をしておくことをおすすめしたい。
パン以外もシフォンケーキ、スコーン、チーズケーキなどお菓子も人気。夏は自家製のアイスクリームも販売している。
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