LINEで送る「時の鐘」が目印の手打ちうどん店
江戸時代の城下の面影をそのままに、現在も小江戸・川越のシンボルとして観光客の目と耳を楽しませている時の鐘。その名の通り、約400年前から城下町に時を告げる時計台としての役割を担ってきた。技術の進歩とともに鐘つき時計台はその役割を終えていったが、現在も午前６時・正午・午後３時・午後６時の計４回、鐘の音を聞くことができる。
「鐘つきうどん きんちょう」は、32年前から時の鐘の斜め向かいに店を構えている。これ以上ない好立地に、ほぼ毎日店内は観光客で賑わう。休日の昼食時には行列ができるほどだそう。
常時４～５名で切り盛りしているという店の営業時間は、午前11時30分～午後３時と短めだ。その理由を尋ねると、「単純に麺がなくなっちゃうから。開店当初は夜も開けていたんだけど、麺も追い付かないし、休憩もほとんどできないので今はお昼のピーク時だけで一気にやっちゃおうということになったんです」と、店主の細田さん。個人経営の店らしく、決して無理をしないスタイルで店を長く守ってきた。
精肉店からうどん店にジョブチェンジ
「この店の隣が本家で先代の主人はそこの末っ子なのですが、本家では乾物屋・魚屋・八百屋を経営していたので、魚、野菜の次は肉だろうということで精肉店を始めたのが最初でした。一時は上福岡でラーメン屋も経営したり忙しくしていたんですけど、あまりに休めなかったので、好きな時に休める職業に変えようということになって。精肉店だと、卸先が旅館や料理屋さんになるので、自分の都合では店を休めないんですよね。もともと主人がうどんが好きだったということもあり、せっかくご先祖様から授かったこの土地と店舗もあるので、この場所でうどん屋を開くことにしました」
そうして、先代がうどん打ちを一から学び、現在の「鐘つきうどん きんちょう」開店に至った。
たしかに、うどん店にしてはガッツリ系のメニューが多く、精肉店の面影をところどころに感じる。例えば、かつ丼のかつとじ部分をうどんにそのまま乗せた「ヒレかつうどん」は、まさに肉屋の名残だという。
さつま芋を麺に練り込んだ、オリジナルの「いもうどん」
川越名物といえばさつま芋だが、「鐘つきうどん きんちょう」では麺にさつま芋パウダーを練り込んだ自家製の手打ちうどんが提供されていて、店の看板メニューのひとつになっている。
以前は卸し業者から乾麺を仕入れていたが、現在は店内で製造されている。配合は、うどん粉９割・さつま芋パウダー１割が鉄則。それ以上だと麺がボソボソになってしまうらしい。 茹で上がりはコシが強くツルツルで、噛みしめるとさつま芋の香りと、ほんのり甘みが口の中に広がる。川越ならではのオリジナルメニューということで、やはり観光客を中心に人気があるそうだ。（普通のうどん麺を選ぶことも可能）
昆布、煮干し、鰹節、鯖節の４種でとった出汁と川越の名産・松本醤油で作ったつゆに付けていただく。"かけ"の場合は薄口醤油が使われるそう。
店のこだわりは「お客さまと喧嘩しないこと」
店主の細田さんは、ざっくばらんな語り口が楽しいご婦人だ。「お店のこだわりは？」という問いに対しても、「お客さまと喧嘩しないこと」というまさかの答えが返ってきた。よく話を聞いてみると、どうやら客の要望にはなるべく答える、ということらしい。 「お客さまによって、いろんな要望があるんですよ。例えば、ヒレかつうどんをうどんに乗っけないで別々で出してくださいとか。あとは外国人のお客さまが増えたので、ベジタリアンだから肉と魚は使わないで欲しいと言われることもありますね。その場合、出汁も魚を使っているので生醤油で出します。お客さまの要望に対しては、どんなに忙しくてもできることはやります。できないことはもちろんお断りしますけど......。できる限り、お客さまの望むことをしてあげたい」
そういった個人の要望を叶えることはもちろん、誰でも安心して食べられるように出されるものはすべて材料からこだわって店内で作る。化学調味料は一切使わない、蕎麦アレルギーの人に配慮して蕎麦も扱わないという徹底ぶりだ。
「そもそも、こどもからお年寄りまで食べられるものは何だろう？ と考えた結果のうどん屋なので。遠足や社会科見学に来たこども達でも食べられるように、800円のせいろうどんなど価格もお小遣いで賄える程度に抑えています。お土産を買いすぎちゃってジュースしか注文できない中学生も受け入れていますよ」
どんな人も受け入れてくれる、川越に根づく人々の温かさがそこにはある。窓から覗く時の鐘に400年続く城下町の風情と人情を感じながら、自家製の手打ちうどんに舌鼓を打ってみてはいかがだろうか。
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