アイデンティティを辿ると、そこにはいつもアメリカがあった

交通量の多い路面にありながらログハウスのような外観。店名をペイントした木板看板とサングラスをかけた人物のイラストが目を惹くこの店は、20172月にオープンした飯能初のグルメバーガー専門店です。

ふと気になったのが看板に描かれた「BARGER」の文字。ハンバーガーの綴りは本来「B"U"RGER」。ここには何か意味が? その答えは取材を通してわかっていきます。

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店に入ると壁にはアメリカ国旗。黒板に描かれたイラストや店のあちこちに飾られたアイテムなど、店内にはアメリカンなテイストが散りばめられています。高校卒業まで町を出たことがなかったという生粋の飯能生まれ、飯能育ちというオーナーの鴨下城司さん。店いっぱいに溢れるアメリカ愛がどこからくるものなのか尋ねてみました。

「僕がこどものころ、90年代J-POPには久保田利伸さんのようなアフリカ系アメリカ音楽のテイストを持った曲がたくさんあってカッコ良かったんです。そしてイチローのメジャーリーグでの活躍をワクワクしながら観ていたのが学生時代。髪型やファッション、映画やアート。従来の日本文化にも、アメリカナイズされたものが増えていきました。

今でこそ海外で活躍するアスリートも増えましたが、当時はその先駆者になる人たちが現れ始めた時代。なんだかとんでもないことを成し遂げているように感じました。アメリカでがんばる日本の人たちを通して、僕自身もアメリカに対する憧れを強くしていきました」

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「そして僕自身のアイデンティティでいえば、母がフィリピン出身で、ハーフとして育ちました。フィリピンの人たちは日本人とはまた違った憧れ方でアメリカを見ているんです。アメリカによる統治時代だった時代もあるせいか、アメリカ音楽の番組も普通にありました。憧れの人としてホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーの名前が挙がるような環境。母からいつも聞いていた話がアメリカに興味を持つきっかけでした。こどものころから、同級生に比べてアメリカへの羨望の想いは強かったと思いますね」

その後、最初に鴨下さんが就職したのは自衛隊の横須賀基地。先輩に連れられて"半分日本、半分アメリカ"のムードを持った横須賀のドブ板通りや横浜に足を運ぶ機会も多く、ここでもアメリカを強く意識することがあったそうです。

食の世界で活躍したい。その想いは何も知らなかった10代から

元々興味のあった食の世界へ飛び込んだきっかけはリーマンショック。当時、製造業で働いていた鴨下さんは出社が週3回に減少し、仲の良かった同僚たちも減ってしまったそうです。本来ならネガティブな要素だったはずが、「いいタイミングでリーマンショックになったんです」と笑う鴨下さん。当時20歳という若さも手伝って「どうせ不景気で大変なら、好きな仕事をしよう」とポジティブに捉え、転職を志します。

最初に門を叩いたのは地元飯能の老舗ダイニングバー「PADDOCK PASS」。憧れていた"アメリカ"と"食"が融合した空間で「店に入った瞬間、ココだ! って電流が走ったんです」と鴨下さん。20歳で憧れのバーテンダーとしてカウンターに立ち、数年後には店長を任されるまでになりました。

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「気がつけば立場的に叱られることもなくなって。でも自分はまだ20代半ば。まだまだ学びたい」と、代官山、原宿などでバーテンダーやキッチン担当として経験を重ねます。

今の店を始めることになったのは28歳の時。今の場所が空店舗になることを知った地元の先輩の頭に最初に浮かんだのが鴨下さんだったとか。ちょうどふたりで飲む機会があり、「東京での経験を上手く活かせたらいいのでは」と背中を押してくれたそうです。

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自分の店を持ちたいという想いは早くから持っていた鴨下さん。

「最近、10代のころ書いていたブログを見つけて読み返してみたんです。面白いことに、夢として当時書いていたことが今やっていることに見事に重なっていました。そのころから想いは全然変わっていない。ちゃんと実現できているんだと気づいて嬉しくなりましたね」

こだわりを詰め込んだ、リッチでフォトジェニックなバーガー

バーテンダーとして飲食業界のキャリアをスタートした鴨下さん。お酒だけでなく、料理もできるようになりたいと選んだ修行先のひとつが広尾のグルメバーガー専門店「バーガーマニア」でした。当時はグルメバーガーを扱う店はまだ珍しく、「東京ではこんなハンバーガーが食べられるんだ」と新鮮に感じたといいます。

そこで独立にあたり、ハンバーガーとBARを融合した「GEORGE'S BARger」で勝負を試みます。しかし飯能初のグルメバーガー専門店の旗揚げは、前途揚々とはいかなかったようです。東京ではすでに流行っていたものの、地元ではまだまだ認知されていなかったグルメバーガー。「ハンバーガーにこんな金額は出せない」と言われることもしばしば。「ファストフードなら200円くらいのチーズバーガーがうちだと1,210円。当然といえば当然の反応です。でも、ハンバーガーのクオリティを下げることだけはしたくない」と、試行錯誤の日々が続きます。

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「素材にこだわってしっかり原価もかけている。だから値段も安くはありません。その点に自信を持つことで、理解を示してくださるお客さまが徐々に増えていきました」

GEORGE'S BARgerで使用しているビーフは国産牛。「オージーやUSビーフのワイルドさも良いのですが、和牛は香りが良くて味わいも品がいい。当然、原価は上がりますが、その分おいしさもアップします」と鴨下さんは胸を張ります。

バンズの仕入れ先はバーガーマニアをはじめ、都内のグルメバーガーショップの多くが使用する東新宿のベーカリー。その理由は「天然酵母で香りがいいこと。そしてカリッとした外側と、ふわっと柔らかい生地のバランスが絶妙で間違いがない」。そんな絶大な信頼もあり、頼み込んで特別に取り寄せているといいます。

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もうひとつ、大きな特徴になっているのがレタス。丁寧にたたまれた姿が実にフォトジェニック! 

「修行先でもレタスはたたんでいましたが、『もっときれいに』という妻のアドバイスでこの形になりました。自分ひとりだったら、ここにはたどり着いていないですね」。女性目線を取り入れることで、女性の心もしっかり掴む美しいバーガーが出来上がりました。丁寧にバーガーと向き合う鴨下さんのスタンスを象徴しているようにも見えます。

「今は飲食店にとって難しい時代ではありますが、おかげさまでテイクアウトが好調。お客さまにはただただ感謝するばかりです」

ディナータイムにはアメリカンムード満載のバーに

ディナータイムは8種のハンバーガーやナチョグランデ(940円)などのフードメニューと一緒にお酒も楽しめるバースタイル。珍しいラインナップのクラフトビールやワインなどもアメリカ産がそろいます。

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さらに世界のウィスキーやジンがずらりと並ぶカウンターの棚は壮観! 眺めているだけでもワクワクしてきます。もちろんバーテンダーとして腕を磨いた鴨下さんのカクテルを楽しむことも可能です。

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甘いものが好きな人には多彩なメニューを誇るミルクシェイク(660円〜)や自家製レモネード(440円)もおすすめです。

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リッチで贅沢なハンバーガーと多彩なドリンク、そしてバーテンダー出身ならではの会話。鴨下さんが創り出す世界観は初めて訪れる人にも居心地のいい空間でした。飯能駅に降り立った時にはぜひ足を伸ばしてみてくださいね。

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