ユニークな経歴を持つ店主の半生。異業種からラーメンの世界へ

東長崎駅南口から続く長崎銀座は、ひと昔前の空気が今もただよう落ち着いた商店街。駅から2分ほどで今回の目的地「カネキッチンヌードル」が見えてきました。居酒屋などが入る複合施設の2階にあり、階段を上がって店内へと入ります。カウンター11席のみの店内は天井高があり、広々とした空間になっています。

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金田さんは人気つけ麺店の「六厘舎」に6年半ほど勤務したあと、間借り営業期間を経て2016年12月に「カネキッチンヌードル」を開業。しかし、これは金田さんの人生のほんの一部です。
「高校時代は父の知り合いがやっていたお寿司屋さんでバイトして、その後は専門学校を出てからアニメーターとして働いていました。絵を描くのが好きで入った世界でしたが、先輩たちの物凄い才能に触れるうち『この業界で食べていくのは無理だな』と思うようになってね」。22歳できっぱりとアニメ業界を離れ、学生時代にアルバイトをしていた寿司店で8年ほど勤務したあと輸送機器メーカーに転職します。

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しばらく安定した生活を送っていた金田さんでしたが、2008年に起こったリーマンショックにより輸送機器メーカーを退職。再び職を探すために行ったハローワークで「六厘舎」の求人と出合います。「六厘舎」時代はセントラルキッチンでの業務をはじめ、系列店の立ち上げや店舗運営などラーメン店経営のイロハを学んだ金田さん。次第に独立を意識するようになったと言います。

大切にしているのは旨味のインパクトと一体感

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金田さんのラーメンは厳選した素材から引き出すふくよかな旨味とスッキリとした飲み口の淡麗系です。券売機には「醤油らぁめん」(1,100円)、「潮らぁめん」(1,100円)、「昆布水のつけめん」(1,200円)のほか、限定メニューのボタンが並びます。

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一杯目は「醤油らぁめん」。スープを口に含むと、まず醤油の芳醇な香りとコクが弾け、あとから鶏ダシのまろやかな旨味が広がります。しなやかな麺との馴染みも良く、麺を噛むたびに醤油の風味が鼻を抜けていきます。

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スープのメイン素材は丹波黒どり。これにチャーシューの仕込みで出た豚モモ肉の端材を加えて味に厚みを持たせています。「骨より肉の方が圧倒的に上品な旨味が出るからね。前は名古屋コーチンやアサリ、昆布、カツオ節を使っていたけど、おいしさを模索しながら徐々にモデルチェンジしてこの構成にたどり着きました」。

醤油ダレは「生揚げ醤油」や「たまりしょうゆ」などをブレンドしています。「ひと口目から醤油のインパクトをバチッと立たせたいから、味や香りの違う10種類の醤油を使っているの。風味が際立つ4番打者は絶対だけど、つなぎの2番打者も必要とかって......醤油ダレの構成は野球チームみたいなものだね」。10種それぞれの持ち味をバランスよく配合して、ベストな味に仕上げています。

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淡い琥珀色のスープにきらきらと香味油が浮かぶ「潮らぁめん」は、丹波黒どりスープに魚介ダシを効かせた塩ダレを合わせた一品。金田さん曰く「タレにカツオ節とかアサリ、カキなんかをガッツリ効かせている」というスープは、魚介の旨味が塩の角をまるく包み込んで、印象的な味わいに仕上がっています。

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のど越しの良い平打ち麺は「三河屋製麺」に特注していて、よく見ると全粒粉が練り込まれています。「国産小麦オンリーで打ってもらっています。全粒粉を入れたのはうちの淡麗スープとの馴染みを考えて。麺とスープの一体感って大事だからね」。

進化を続ける「俺の味」。新たな素材探しも始まっている

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金田さんのラーメン作りには、さまざまな業界を渡り歩いてきた経験が随所に生かされています。「ラーメンの盛り付けを決める際には『同じ色の具材が並んだらおかしいよな』とか『おいしそうに見せるには高さを出して立体的にしよう』とか、アニメーター時代に培った構図や色彩感覚でアプローチしてるね」。厨房での手際の良さにしても「工場で働いていた頃なんか、段取りと手際が命だったから。それをキッチンで実践しているだけ」とニヤリ。

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オープンから3年経った2019年にはミシュランのビブグルマンに選出されますが、当時は自分の理想とする味が出せずにいた時期だったそう。「俺が求める"おいしさ"って、自分が食べて『おいしい!』と思える味なの。あの頃は頭に描いたイメージをうまく形にできなくてずっとモヤモヤしててさ。ビブグルマンに選ばれた時は正直『本当にうちでいいの⁈』って思ってたよ(笑)」。

金田さんが理想とする味は日々アップデートされていて、現在は新たなスープ素材の準備も進めています。「世間の流行りだとかは意識してない。俺がおいしいと思う味をお客さまにも共感してもらいたいし、『カネキッチンは他所と違うよね』って言われる味にしていきたいよね」。

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