素朴ながら丁寧に手をかけた和菓子の数々
富士見野は1934年創業、創業から90年近く老舗の和菓子店。店頭にはお団子やまんじゅう、どら焼きなどがショーウィンドウに並ぶ、昔ながらの佇まいです。また四季折々、季節の和菓子が店頭を彩るのも和菓子屋さんの魅力。取材に伺った6月初旬には、柏もちや麩まんじゅうなどがならんでいました。
写真は手前から「葛ざくら」(155円)、「すあま」(130円)、「大福」(120円)に「麩まんじゅう」(175円)。そして左奥の「どら焼き」(195円)は、ふわふわの生地に端までぎっしりあんこが詰まった人気者です。どれも良心的な価格ながら、小豆の香りがしっかりと感じられるあんこ、なめらかで伸びのある餅など、素材感を活かして丁寧に作られた和菓子です。
軒先に掲げられた "みつ豆"の朱書きに誘われて暖簾をくぐると、中には喫茶室が。昭和の雰囲気が残る、居心地の良い空間です。
店を切り盛りするのは石山繁さん・和枝さんご夫婦。お祖父さまから受け継いだ店の暖簾を守る三代目です。
「創業当時は、砂糖や小豆は貴重な高級品でした。お給料が出るのを待って甘いものを食べに行く。それを楽しみに訪れてくださる方が多かったそうです」と教えてくれたのはおかみの和枝さん。和菓子のレシピは代々受け継いできたものを元にしながら、時代に合わせて少しずつ変化させているそうです。
店頭に並ぶ和菓子、いなり寿司やおにぎり、そして喫茶室にずらりと並んだ看板のメニュー。毎日数えきれないほどの商品を丁寧に作り続けながら喫茶も営む繁さんには頭が下がります。
かわいらしくてフォトジェニックなクリームあんみつ
数ある甘味メニューの中でも、特に人気が高いのが「クリームあんみつ」(580円)。注文からしばし待つと、黒みつに温かい煎茶を添えて、木盆に乗って登場します。
うさぎ型に切ったりんごやバナナ、キウイなどのフルーツが盛りだくさんです。横には「富士見野」の顔ともいえるこしあんを贅沢にトッピング。上にはバニラアイスや赤えんどう豆、そして底にはつるんと冷たく歯応えも絶妙な寒天が入っています。フルーツに紛れてちょこんと乗った小さなすあまもかわいらしく、良いアクセントになっています。
ねっとりとコクのあるこしあんに、とろけるアイス。そして固すぎず柔らかすぎず、絶妙なコリコリ感の寒天......。風味と食感を堪能しながらあっという間に完食してしまいます。
昭和世代にとっては懐かしく、そして昭和レトロブームの最中にいる若い世代の目には新鮮に映る、昔ながらのクリームあんみつ。「最近は若い人たちが熱心に写真を撮る姿も多くなりましたね。だから盛り付けにも手が抜けないんですよ」と繁さんはどこか嬉しそうな笑顔を見せます。
甘味処なのにラーメンも大人気
「富士見野」の数あるメニューの中には、甘味だけでなくラーメンもあります。これを目当てに訪れる人も多いという人気メニューです。
取材時にお店を訪れていた常連のお客さまも、まさにラーメンをお楽しみ中。「ここは何を食べても本当においしいんですよ。ラーメンはお餅入りのメニューもあって、それがまたおいしいんです」と教えてくださいました。ラーメンは二代目である繁さんのお父さまからのメニュー。現在は鶏ガラや豚骨を炊いた本格的なスープに醤油を加えて味を整え、甘味にも合う和風ラーメンに仕上げています。
昭和初期からの長い営業の中で、常連さんの比率が高いという「富士見野」。「こどもの頃、親子で店に来ていた子がしばらく姿を見せなくなってどうしたのかなと思っていると、何年か経って『結婚したんだよ』と顔を出してくれる、なんていうことがよくあるんですよ。思春期を経ておとなになって、また顔を見せてくれるのが嬉しいの」と和枝さんは笑顔を見せます。
丁寧な手仕事をモットーとする繁さんの甘味やラーメン、そして町のお母さんのような朗らかな和枝さんの温かさ。新井薬師にお参りをしたらぜひ立ち寄りたい、愛にあふれるスポットです。
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