小さな店内に90種類以上のお菓子がぎっしり
ドアを開けると、店内には温かく懐かしい雰囲気が満ちており、所狭しと陳列されたお菓子の数々に心が躍る。
ショーケースには色とりどりのケーキが40種類。壁の棚や中央の台には、50種類以上の焼き菓子が、丁寧に書かれた手書きのポップとともに並んでいる。こどものころ、心をときめかせたあのお菓子屋さんを思い出した。
木いちごとチョコレートのケーキ「プランタン」(345円)、「レアチーズ」(378円)など、ショーケースには色彩豊かなケーキの数々。
この日並んでいたホールケーキは「かまやきスフレ」(1,836円)など10種類。他の種類やサイズも別注で豊富にそろう。
ごまかしのきかないスポンジは腕の見せどころ
「創業以来守り続けているのは、地元のみなさんの味覚に寄り添った素直な味。スポンジやクリームなど、ひとつひとつの基本のパーツを大切につくり、その上で調和したお菓子になるように心がけています」。
そう笑顔で話してくれたのは、二代目シェフの堀之内満一さん。
「アビ二ヨン」の創業者は、満一さんの父親の堀之内信雄さん。それまで鹿児島で和菓子職人をしていた信雄さんは、東京で出会った洋菓子に惚れこみ方向転換。洋菓子の老舗「風月堂」などで修行を積み、1970年に念願の店を開いた。
シンプルにして究極の「あんずのロールケーキ」(507円)は、まさに「アビ二ヨン」を象徴するような人気作。スポンジにジャムを挟んだ、単純明快で懐かしいロールケーキだ。
色よく焼けた生地を頬張ると、そのおいしさに目を見開いた。しっとりとした弾力、そしてリッチな卵の風味。甘ずっぱいあんずジャムが後を引き、1本ペロリと平らげてしまいそうだ。スポンジは信雄さんが和菓子職人時代に焼いていた長崎カステラのレシピをアレンジしているのだそう。
「スポンジは一番ごまかしがきかないから、腕の見せどころでもあります」と話す満一さん。その実力は、洋菓子の王道・ショートケーキでも大いに発揮されている。
「苺のショートケーキ」(388円)とホールケーキ(12センチ2,592円~)は、どちらもイチゴを2段に挟んだ贅沢仕立て。天然ハチミツを使った口どけのいいスポンジと、ミルキーなコクのある生クリーム、みずみずしいイチゴの酸味が、見事なバランスで組み立てられている。
ちなみに、スポンジ台(15センチ1,080円~)のみも販売中とのこと。デコレーションは自分で楽しみたいけど、スポンジは「アビ二ヨン」のものじゃないとダメ、という常連さんに好評だそう。
こだわりの熟成プリンと人気NO.1スイートポテト
「アビ二ヨン」の懐の深さは、こちらも定番中の定番、プリンにもあらわれている。
「思い出プリン」(324円)と名付けられた瓶入りのプリンは、卵黄の配合や焼き加減など、試行錯誤を重ねて完成した一品。ひと口食べるとどこまでもなめらかでやさしい味わいが広がる。このふくよかなミルクの旨みは、液を一晩熟成させることで生まれるそう。牛乳は低温殺菌した濃度の高いものを使い、高純度の生クリームやコンデンスミルクでコクを出している。
店の人気ナンバーワンを誇る「王様ポテト」(237円)も要チェックだ。
まずは鹿児島産のサツマイモ「紅あずま」を焼きいもにして、食感を残すために裏ごしはせず手でつぶす。それを生クリームでふんわりと仕上げたサツマイモフィリングと混ぜ合わせて焼き上げる。焼きいもの豊かな風味が後を引き、思わず「もう1個」と手を伸ばしたくなるほど軽やかな味わい。スイートポテトの従来のイメージを覆す名作だ。味はプレーンとかぼちゃの2種類。
沼袋名物になっている「沼チョコ」(190円)も見逃せない。チョコレートケーキやアーモンドクリームを重ねて、沼地を埋め立てた地層に見立ててある。
まだまだ紹介したいスイーツは尽きないが、共通しているのは実直にしてひたむき。堀之内さん親子の人柄があらわれているようだった。
何よりも基本をしっかりと――。いつまでも記憶に残るのは、こういうお菓子なのだろう。
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※写真、記事内容は取材時(2018年12月6日)になります。