ごはんの量を選んでギルティフリーなカレーを

新青梅街道に面したガラス戸を開けて店内に入ると、カウンターとテーブルがふたつほど。15人も入れば満席になる小さなお店だ。
カウンターでは店主の齋藤淳也さんがたったひとりで仕込みを行っていた。聞くと、週に2日はランチ営業を行うが、それ以外は夜の営業だけ。昼間はこうしてひとりで仕込みをしているそうで、お店が休みの水曜日も店へ来て仕込み。

齋藤さんいわく「うちのカレーは、意外と手間がかかってるんです」とのこと。否が応でもカレーへの期待が高まってしまう。

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店の外には、目立つ「キーマカレー」ののぼりが立っていたので、てっきりキーマカレー推しなのかと思いきや、お店のメインは「野菜すりおろしカレー」だそう。
メニューには「野菜すりおろしカレー」が350円とある。「この激安価格は一体!?」と不思議に思って聞けば、これはルーだけの価格で、ごはんは好きな量を10グラム単位で注文できるのだとか。100グラム=100円なので、ごはん250グラムの野菜すりおろしカレーは600円ということになる。

夜遅くに2軒目、3軒目としてこの店を訪れるお客さまが多く、お腹の具合に応じてカレーを食べてもらいたい、という配慮からこのようなシステムにしているそう。
最近は糖質を制限している方も多いが、これなら罪悪感なくカレーが味わえるだろう。

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選べる2タイプのカレーと自慢の一品料理

齋藤さんにおすすめのメニューをお願いすると、最初に出てきたのはから揚げ。「カレー屋さんでから揚げ!?」とまた衝撃が走るが、試しに一口食べてみるとこれがおいしい。外はサクッと中はしっとり柔らかに揚がっていて、噛む度に肉汁があふれ出すのだ。

実は「満店堂」は、カレー屋さんになる前は居酒屋さんとして営業しており、その当時からの人気メニューが「満店から揚げ」(600円)。塩と胡椒のみで味付けしているというが、ジューシーに仕上がるコツは仕込みにあるとか。「企業秘密なので......」と渋る齋藤さんに半ば無理やり聞いたところ、140度の低温から揚げはじめるのがポイントだそう。

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さて、本題のカレーはというと、トマトやニンジン、玉ネギを細かくすりおろしたものをベースとする「野菜すりおろしカレー」に旬野菜のトッピングをのせた、彩り鮮やかな一皿が登場。このカレー、野菜の粒が分からないくらいに細かくすりおろすうえ、5時間も玉ねぎを炒めるなど、とにかく手間がかかっている。洋食店で修業していた時代、デミグラスソースの仕込みで大量の野菜をこして捨てていたときに「この野菜を使ってカレーができるのでは?」とひらめいたのが、このメニューの原点だ。

一口食べると口いっぱいにあふれてくる野菜の甘み。クミンやガラムマサラはしっかり効いているが、辛さよりもやさしさが前面に出ているカレーだ。女性のお客さまに好評だそうで、この「野菜すりおろしカレー」に細かくみじん切りにした生姜を混ぜて煮る「生姜カレー」も人気が高いとか。確かに、身体がポカポカ温まるカレーは嬉しい。
さらに、野菜のすりおろしをベースにすることで自然にとろみが付くため、小麦粉や動物性の油脂をそれほど使っていないことも、ヘルシー志向のお客さまに評価されるポイントだ。

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もうひとつのおすすめカレーは、店先ののぼりにもある「スパイシーキーマカレー」(500円)。
こちらは、最近メニューに加えたばかりの新しいカレーで、「野菜すりおろしカレー」とは打って変わって刺激的な仕上がり。インド風のスパイスを用いるのではなく、アニスや四川花椒の香りと辛さを強調した、個性的なキーマカレーなのだ。麻婆豆腐のように舌が痺れる爽快な刺激、アニスのエキゾチックな香りに、一度食べたらまた食べたくなってしまうお客さまが多いという。

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深夜までにぎわう住宅街の"駆け込みカレー寺"

店主の齋藤さんが居酒屋としてこの店をオープンしたのは、2012年のこと。
ボクシングに夢中になって20代を過ごし、飲食の道に入ったのは30代になってからだそう。洋食店をはじめ、さまざまな店であらゆる料理を学んできた齋藤さんのベースになっていたのは、ボクシングをやっていた時代から続く、食への興味と熱意。試合前に食事制限をしている時は、スーパーへ行って食材をじーっと眺め、「試合が終わったらこれを食べよう」と妄想をふくらませていたとか。

この場所で居酒屋を開店し、軌道に乗り始めて気が付いたのは、駅から少し離れた住宅地の入り口という立地の都合上、22時以降の遅い時間に2軒目、3軒目として訪れる客が多い、ということ。
そこで齋藤さんは「もっと早い時間にお客さまが集まる店にしたい!」という想いから、ごはんメニューをメインに据えた店へチェンジすることを模索。2年前に「カレーや 満店堂」として再出発した。

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居酒屋時代の人気メニューを残しつつ、自慢のカレーをひっさげてスタートしたところ、早い時間にお客さまが集まるどころか、「夜遅いけどカレーが食べたい!」というお客さまが集まる店になった。

最近は、2軒目、3軒目として訪れるお客さまだけではなく、夜遅くまで残業し、帰り際に「カレーを食べてから帰ろうかな」という若いサラリーマンなども多く立ち寄るようになったそう。
そんなお客さまの様子を見て、お酒を飲んでいるお客さまにも、仕事帰りのお客さまにもおいしく食べてもらえるよう、ご飯の量を選べるシステムにしたのだ。
仕事で疲れた体にもやさしい「野菜すりおろしカレー」を用意して、今夜も"カレーや"の看板を掲げる「満店堂」。住宅街の入り口で、お腹を空かせた誰かをやさしく迎え入れる、駆け込み寺のような存在だ。

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