訪ねたのは、新宿線「中井駅」から徒歩3分のところにある「染の里おちあい」です。
※写真は施設名称変更前のものです。
「染の里おちあい」は、江戸小紋や江戸更紗など、伝統的な江戸染物を生産する創業100年の老舗。二葉苑の職人の小川さんが、職人の方たちが実際に作業する工房を案内してくれました。
まず、生地に彩色をするための部屋「引場」へ。ここでは、長さ約13mある反物を、部屋の端から端に吊るした状態で作業するそう。生地を吊るすところを、小川さんが見せてくれました。「一反って長い!」と2人。
さらに、色を定着させるために高温の蒸気で生地を蒸す「蒸し場」、その横にある、蒸した後に糊や余分な染料を水で洗い落とす「水元」も見学。水元には多量のきれいな水が必要で、かつてはこの作業を、工房の脇を流れる妙正寺川で行っていたそうです。
染物の工程や歴史など、染物にまつわるお話に、2人は興味津々。質問すると、小川さんは何でも答えてくれます。
染物のイメージが膨らんだところで、いよいよ実践です。
今回体験するのは、更紗型染めの染色体験です。更紗とは、木綿に多彩な模様を染めつけたもの。3000年以上前のインドが発祥で、日本では江戸時代から作られるようになったそう。様々な染めの技法がある中で、江戸更紗は、奈良時代に大陸から伝わった "型染め"で染めます。
まずは、白い木綿生地を板に貼るところから。板には、餅米を砕いて練った糊が塗ってあります。「餅米を使うなんて、昔の人は身の回りのものを上手に活用したんですね」と小川さん。
続いて、生地の上に、模様が切り抜かれた型紙を置き、型紙の両端にある△の穴の部分に印をつけて、2枚目以降の型紙を置くときの目印にします。
ここから、刷毛で色をのせていく作業です。型紙の上から刷毛で染料を塗り、切り抜かれたところに色をつけていきます。
「使うのは、鹿の毛で作られた丸刷毛です。下の方を軽く持って、型紙の上を上下左右に動かします。力を入れると毛先が割れて色が滲んでしまうので、力を抜いて優しく、がコツですよ」(小川さん)
本番の前に、型紙の端っこで刷毛の使い方を練習。「優しく、優しく。肘から下を柔らかくスナップさせると、力が抜けやすくなります。うん、いいですよ」と小川さん。
調子をつかんだら、本番です。「緊張するー!」という2人を、「型染めって、簡単だから大昔からあって今も残っているんです。何も難しいことはないですよ」と小川さんが励まします。
一通り色を乗せたら、型紙をめくって、色の入り具合をチェック。
「薄いでしょうか?」(松谷さん)
「色を重ねていけば大丈夫。ただ、色が入っていないところがあるので、よく見ながら染めていきましょう」(小川さん)
こうして、色をのせては型紙をめくり、小まめにチェックしながら進めていきます。
色を変えて、型紙を2枚目、3枚目......と重ねていくうちに、模様が少しずつ浮き上がってきました。
「印刷機がない時代から、ごくシンプルな道具で精緻な染物を生み出してきた、昔の人の知恵と遊び心を感じますね」という小川さんの言葉に、2人は大きく頷きます。
14枚すべての型紙を使い終わったら、最後にもう一度、色のバランスや色が入っていないところがないかを確認。「これでよし!」となったら、次は生地を蒸す工程です。「蒸すと発色が良くなるので、印象が変わりますよ」と小川さん。
100度の蒸気で蒸すこと15分――。作品の出来上がりです。
2人は「同じ型と色を使ったのに、仕上がりの雰囲気が全然ちがう!」と、お互いの作品を楽しそうに見比べます。体験した感想を「日本文化の素晴らしさを体験できて楽しかったです」「今度は型を彫るところからやってみたい!」と話してくれました。
小川さんによると「二葉苑では、職人に教わりながら、機械を一切使わない伝統の技を楽しんでいただけます。さくら染め体験や浴衣を一日で染める体験など、プログラムもいろいろあります。幼稚園や保育園のお子さんも親子で参加できるので、お気軽にいらしてください」とのこと。新宿高層ビル街の袂に今も息づく、江戸の伝統文化に触れてみませんか?
※体験の内容は変更になる場合がございます。
職人技に触れる。「染の里おちあい」で更紗型染めの染色体験!
かつて、東京新宿が京都、石川に並ぶ染物の一大産地だったのをご存知でしょうか?
神田川、妙正寺川流域の中井・落合地域は、最盛期には300軒以上の染色業者が軒を連ね、川のあちこちで職人たちが染物の水洗いをする光景が見られたといいます。今もこの地に受け継がれる「江戸染物」を、松谷さんと冨士岡さんが体験しました。
取材日:2019年2月15日 最終更新日:2024年7月9日