モダン柄で女性たちにヒット!秩父銘仙の柄のヒミツを探る
秩父では江戸時代から多くの人が織物産業に従事してきました。もともとは無地や縞、格子柄などが中心でしたが、明治41年に「ほぐし織り」という新たな技術が取り入れられたことにより、今までにない斬新でアーティスティックな柄の織物も生産できるように。
これが当時の女性たちに大ヒットし、秩父銘仙は"トレンド最先端"のおしゃれ着として、全国的な人気を誇るようになったのだとか。
そんな秩父銘仙を守り続けるのが、1927年創業の「逸見織物」。かつては秩父市民の7割が織物業に携わっていましたが、戦時中の規制や戦後のライフスタイルの変化により、工場数は激減したため、日本の着物文化を継承する、貴重な場所でもあります。
さっそく工場におじゃますると、聞こえてきたのは"カシャンカシャン"とリズムよく動く織り機の音。長年使い込まれた重厚感ある機械に囲まれてみると、まるで昭和にタイムスリップしたかのよう!
こちらが、逸見織物を支える職人さんたち。左から、「逸見織物」の三代目となる逸見恭子さん、67年間も女職人として働く倉林さん、二代目の逸見敏さん、敏さんの弟の和夫さんです。
逸見恭子さん「秩父銘仙はね、織る前にたて糸に捺染する"先染め"の製法なの」
編集部「えっ? 織ってから染めるんじゃないんですか!」
他の織物と違って、秩父銘仙は先に染めてから織るようです。約1400本ものたて糸がずれないよう、ところどころによこ糸を通した「仮織り」の状態で染色するのだそう。その後、仮織りしたよこ糸を取りのぞきながら本織りする「ほぐし織り」を経て完成するのです。
逸見恭子さん「先染めだから、普通の織物と違って柄の裏表がないのが特徴なのよ」
なるほど〜。裏表どちらでも着られるということは、汚れても反対側に返せばもう一度着られるということ。もともと秩父銘仙は規格外のくず繭で作られた庶民の普段着だったというから、理にかなっていますね。
ほぐし織りまっただ中の秩父銘仙を間近で見せてもらうと...モダンな柄と、絹特有の光沢が美しい!
現在は分業化が進んでいますが、かつて逸見さんの工場では、洗練からほぐし織り、加工まで全て自分たちで行っていたそう。一反(大人の着物一着分)の銘仙ができるまでには3〜4カ月もかかるというから驚きです。
伝統文化をカジュアルに楽しむ!秩父銘仙をイマドキに着てみよう
秩父銘仙の生産行程を学んだら、秩父の特産品を扱う「秩父ふるさと館」へ。ここには逸見織物の直売所があり、着物のほか、バッグやアクセサリーといったファッション雑貨が豊富にそろっています。
ヘアゴムやかんざし、万華鏡やペンケースまで...。恭子さん自身が作ったアイテムや、地元の作家さんとコラボした商品も多く、眺めているだけでワクワク♪
そして今回は、恭子さんにアイテムを選んで頂き"秩父銘仙コーデ"に挑戦! まずは織物と洋服を見事にコラボさせた、お出かけコーデがこちら!
伝統的な縞模様やクラシックな矢絣(やがすり)、ポップな花柄など、数種類のはぎれを繋いで作ったスカートは、秩父銘仙の魅力が詰まった、とっておきの一着。クールな青い花柄の銘仙は、かぎ編みのベストに仕立てたことでフォークロアな雰囲気に。
バッグやネックレスも秩父銘仙の鮮やかな柄が目をひきます。ドット柄がかわいい帽子は、芸能人も愛用するブランド「ピーチブルーム」とのコラボアイテム。
お次は秩父銘仙を気軽に楽しめる二部式の着物コーデ。甚兵衛のように上下のパーツが分かれている作りなので、難しい着付けいらずで簡単に着られるのが嬉しい。
2つの柄をミックスしたポップな装いは、カジュアルに着物を楽しみたい日にぴったり! 差し色のストールと、優雅な花柄の手提げバッグももちろん秩父銘仙。これで駅前の仲見世通りを歩けば、正真正銘の秩父ガールが誕生!?
恭子さんいわく、若い人にも秩父銘仙の魅力を伝えるべく、最近は原宿のきものショップ「たんす屋」や「Tokyo135°」などでも力を入れて販売してくれているそうです。
正直言って、秩父銘仙にはこんなに可愛い柄が揃っているものかと驚きました。着物は敷居が高いものだと思い込んでいましたが、秩父銘仙ならちょっとした街歩きにも取り入れてみたいかも。これぞクールジャパンですね!
ちちぶ銘仙館で伝統の「ほぐし捺染」を体験!
最後に訪れたのは、国の登録有形文化財にも登録されている「ちちぶ銘仙館」。かつて繊維工業試験場として秩父銘仙の発展を支えてきた施設で、現在は貴重な展示室や手織りの実習室を備える資料館として利用されています。
ここでは逸見織物の工場で見せて頂いた「先染め」の行程、つまり仮織りのたて糸に染色する「ほぐし捺染」を実際に体験させてもらうことに。1メートルほどの真っ白な絹糸の上から型をあて、ちちぶ銘仙館の国本実さんに指導を受けながら、染料で模様をつけていくのですが...。
国本実さん「ここは思いきってぐっと力を入れてやんないと!」
編集部「ひえ〜。こ、こうですか? 難しい!」
まずはベースとなる色をのせて...。
国本実さん「そうそう! 順調、順調」
パーツごとに型を変えて染色していくので、花柄部分は黄色をチョイス。
編集部「あっ、ずれた......(涙)」
やや苦戦しながらも、なんとか完了! 型を外してみると...おお〜、ちゃんと色がついている!
あとはこれを蒸して色を定着させ、乾かしてアイロンがけするとオリジナルタペストリーのできあがり。
秩父銘仙ができるまでには、複雑な工程や繊細な職人技が不可欠。ほぐし捺染はその一部ですが、体験することでより深く秩父銘仙の価値を感じることができました。展示室では、繭から秩父銘仙ができるまでの工程も学べるので、ぜひゆっくり見学したいところ。
その歴史が認められ、2013年には国の伝統的工芸品にも指定された秩父銘仙。自由な発想で斬新な柄を織り成すスタイルは、着物離れが進む現代だからこそ注目すべき、粋なカルチャーかもしれません!
※体験、見学についての詳細はWebサイトをご確認いただくか、直接お問合せください。
※こちらの記事は、2015年11月19日公開の記事になります。