わずか7席の狭小店舗でラーメン店を開くと決意

所沢駅東口から3分ほど歩き、ボクシングジムの赤い看板が見えてきたら今回の目的地「雲吞麺の店 おんわ」に到着です。駅前の騒がしさとは真逆の、生活感ただようこの場所に店ができたのは2020年夏のこと。店主の佐藤陽(あきら)さんは約15年の修業を経て、生まれ育った所沢で念願の独立を果たしました。

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佐藤さんは1979年生まれの44歳。小学生の頃に漫画「美味しんぼ」と出合い、大学卒業後に料理の世界へと進みました。「と言っても、最初は老人ホームの給食センターに勤務していました。一緒に働いていた人たちが和食や中華でずっと働いてきた方ばかりで、『真剣に料理の世界で働きたいなら、きちんと学んだほうがいい』とアドバイスをもらって」。24歳で調理師専門学校に入学し、卒業後は羽田空港内にあった中華レストランに就職します。

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「羽田で6年働いたあと、縁あって群馬で農業をしていました。で、やっぱり中華の腕を磨きたくて台湾小籠包の店で数年ほどお世話になってから独立しました」。当初は町中華の店を開こうと思っていましたが、知人からの紹介で出合ったカウンター7席の小さな店舗を見た瞬間に「この規模だったらラーメンに絞って勝負しよう」と決心したそう。

中華料理の知識を活かしたスープ作り。ワンタンにこだわりあり!

「おんわ」のスープは、中華料理でスタンダードとなっている上湯(しゃんたん)の食材、技法がベース。「材料は鶏ガラと豚ガラ。ここまでは一般的なラーメン屋さんと同じです。そこに干し貝柱と中国ハムなどを入れて、上湯特融の上品な香りと旨味を引き出します」。

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店で使用する食材のなかで佐藤さんがもっともこだわるのは、店名にもあるワンタン。二度挽きした滑らかな肉が海老のプリッとした食感を引き立てます。「あんが肉汁を多く含んでいるので、作り置きすると皮が伸びて食感が悪くなるんです」。オーダーが入るたび、慣れた手つきでワンタンを包んでいきます。

「おんわ」の人気メニュー3選。夜は台湾ビールと一品料理が人気

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看板メニューの「塩ワンタン麺」(900円)から実食。きらきらと黄金色に輝くスープに中細の麺がしなやかに横たわり、自慢のワンタンやチャーシュー、青菜が添えられています。食べ進めるうちにチャーシューから甘味や香りが溶け出し、スープの味わいが華やかに変化していきます。「うちのチャーシューは台湾料理でおなじみの香肉(シェンルー)です。豚バラを桂皮、陳皮、山椒で下茹でしてからジャスミン茶で燻製しています」。

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先ほどの「塩ワンタン麺」と同じ上湯を用いた「坦々麺」(1000円)は、ゴマペーストを溶かし込んだクリーミーな口当たりが魅力です。「イメージしたのはカプチーノなんです。ゴマペーストをホイップすることでまろやかな飲み口のスープに仕上げています」。スープ自体はとても淡泊な味ですが、挽肉に甜面醤や醤油で味をつけた炸醤(ザージャン)のコクとラー油の香りが混ざると、たちまち深みのある味わいになっていきます。

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台湾グルメで定番の「ミニ魯肉飯(ルーローハン)」(180円)はラーメンとセットで食べたい人気のメニューです。八角がふわりと香るやや甘めの味付けは佐藤さんによると「台湾屋台でおばちゃんが作る味をモチーフにしたもの」だそう。

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18時からはラーメンに加えて一品料理の提供も。「飲みに来てくれる常連さんが多いから、何か気の利いたおつまみを出したくて」と、ほぼ日替わりでメニューを決めています。この日のラインナップはシャキシャキの食感がたまらない「空心菜の炒め」(680円)。「台湾ビール」と「ちゃーはん」(ともに500円)でお手軽晩酌セットが完成します。

ラーメンファンに支えられた3年間。これからも自身の味に磨きをかける

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コロナ禍での開業にも関わらず3年続けてこられたのは多くのラーメンファンのおかげ、と佐藤さんは感慨深げに語ります。「ずっと中華の世界にいたので、食べ歩きをする人たちやラーメン専門のレビューサイトがあるなんて知らなかったんです(笑)。店を始めると次第にそういった方々に注目されるようになり、ネットで好意的な評価をいただいて。本当に感謝しています」。

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この3年間、佐藤さんがブレずに守ってきたのは「中華料理の伝統をラーメンに落とし込みむ」との思いでした。「いつもお出ししているのはワンタン麺と坦々麺だけですが、何度か酸辣湯麺や五目あんかけ湯麵を限定メニューとして用意しました。これからも他のラーメン店とはひと味もふた味も違う『さすが中華出身』と言ってもらえるような味をお届けしたいですね」。中華料理で培った経験に個人店ならではの自由な発想を掛け合わせ、今後も「おんわ」の味はますます進化することでしょう。

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