ブドウ酵母のおいしさを引き出す長時間低温発酵
店主の大島信吾さんが奥さまとふたりでお店を出したのは6年半前。20年ほどパンの販売・製造を続けてきたが、体を壊したことをきっかけに独立し、慣れ親しんだ街に自分たちの店を持った。「生地がおいしい、食べごたえのあるパンをつくりたい」という思いから、ブドウの天然酵母を使用し、添加物などを加えないパンづくりにこだわっている。24時間かけて低温でじっくり発酵させるため、午前中から翌日の分の仕込みをして、焼くのは1種類につき1日1回だけ。土曜日は夕方には売り切れてしまうこともある。
酵母の扱いは難しく、慣れるまでには失敗も多かったそう。ブドウが発酵するまでに5日ほどかかるが、気候や湿度によって細かな調整が必要で、見極めを誤るとすっぱさが強く出てしまう。 また、ブドウの他にもリンゴやイチゴなど、果物由来の酵母づくりにも挑戦。イチゴは知人の畑を借りて、無農薬でイチゴを育てるところから始めた。それぞれのフレーバーを生かしたパンを試行錯誤した末に、酸性で雑菌にも強く、発酵力が強いブドウ酵母に落ち着いた。オーガニックで、オイルコーティング無しの干しブドウを使用し、安心して食べてもらえるパンをつくり続けている。
4種類ある食パンのうち、1日限定5本の「muku食パン」(一斤340円)は、国産小麦を使ったモチモチの食感が特徴。通常、食パンの水分量は74%程度だが、mukuの食パンは91%と水分量が多い。機械のミキサーではうまく混ぜることができないため、手ごねでつくられている。
「バゲットmuku」の特徴も水分の多さで、皮はバリッとしているけど、中はふわふわ。水分量88%で、やはり手ごねでつくり上げられる。
お客さんにはお年寄りも多く、ハード系のパンが受け入れられにくい部分もあったが、サイズを小さめにするなど工夫を凝らし、今では人気の定番商品になった。 卵、乳製品を使わない商品も多く、アレルギー持ちのお客さんにも喜ばれている。
具材を挟んで、スープと一緒に。料理とともに味わって
パンは全部で40種類ほど。
「料理を引き立てるパンをつくりたいと思っていて、できればお客さまが自宅でつくる料理と一緒にパンを食べてほしい」と、大島さんは話す。 たとえば、しっとりもっちりとした食感がおいしい「チャバタ」なら、半分に切ってから目玉焼きやスライスチーズを挟んでみる。いちじくとクルミが贅沢に入った「フィグノア」は、薄くスライスして、ワインのお供に。買ってそのまま食べるだけでなく、創意工夫してひと手間加えることで、お客さまのパン生活を豊かにしてもらいたいという。
パンづくりが好きで仕方ないという様子で、ニコニコとインタビューに答えてくださった。
実は、この店には、パン屋の定番ともいえる「あんぱん」「メロンパン」「カレーパン」がない。そういった定番商品のほか、「ライ麦入りのドイツパンをつくってほしい」などお客さまからのリクエストも多く、メニューを構想中なのだそう。
「もし、うちであんぱんを出すなら、全粒粉の生地にあんこを詰めた、しっかり噛みしめるタイプのパンになるかなぁ」と、笑いながら教えてくれた大島さん。 型にはまらない自由な発想力で生み出される大島さんの愛情あふれる無垢なパンづくりは、まだまだ進化中だ。
※価格はすべて税込
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※写真、記事内容は取材時(2017年3月5日)のものです。