地元に根付いた老舗とんかつ店を訪ねる

カレーはさまざまなジャンルと相性が良い料理。なかでも揚げたてサクサクのとんかつが乗ったカツカレーは、ニッポンのソウルフード同士が一緒になったテッパンの組み合わせだ。そこで今回はちょっと趣向を変えて、「とんかつ屋さんのカツカレー」をクローズアップ。訪ねたのは昭和51年創業、地元・清瀬に根付いて40年続く老舗店「とんとん」だ。

BT013555.jpg

藍に白抜きののれんをくぐりカラカラと引戸を開ければ、昔ながらの家庭的な店構え。5席のカウンターと2人用小上がり席のみ、こぢんまりとした店だ。

BT013564.jpg

カウンターからは厨房の様子が手に取るようにわかる。この距離感が親しみやすさを醸し出している。

「とんとん」のカレーに個性を引き出した食材とは?

今回「とんとん」のカレーに興味を持ったのは、ある具材が気になったからだ。その具材とは「豆腐」。
「特に大きな意味があって入れているわけでもないんだけどね」と笑うのは店主・原川孝夫さん。開店当初のカレーレシピには豆腐は入っていなかったが、テレビや雑誌からヒントを得て入れるようになったという。
「ほら、味噌汁にも豆腐は入っているでしょ、それと同じような感覚なんですよ」。なるほど、そう例えられると合点が行く。ニッポンのソウルフードには日本ならではの食材がよく合うはずだ。

BT013577-1.jpg

洋食出身の店主が創り上げる和洋折衷カレー

原川さんは元々洋食の店で修行を重ねたそうで、40年前に独立。洋食時代に鍛えた腕でカレーもメニューに加え、開店当初からメニューの柱はその二本立て。さらに当時はハンバーグやコロッケもメニューに並んでいたそう。今よりも洋食店に近いメニュー構成だったようだ。

BT013565.jpg

現在は「あくまでメインはとんかつ」といいつつも、洋食出身だけあってカレー作りにも手は抜かない。スープで溶かしたカレールーにスパイスを4~5種類加え、ショウガやニンニクなどの香味野菜と一緒に煮込むまでが前日の作業。翌日、約2kgのタマネギをバターで1時間ほど炒めたら、前日仕込んだルーを漉して加えてジャガイモと一緒に煮込む。さらにりんごやバナナ、チャツネ、最後に豚肉を追加して旨みを引き出してさらにコトコトと煮込み、2日かけて仕上げている。洋食で鍛えた腕を存分にふるい、丁寧に仕込みを行なっているのだ。

豆腐は煮崩れしないよう、オーダーが入ってから。カレーに乗せるカツにもとんかつメニューと同じロース肉を使っている。

BT013568.jpg

ユニークなのは白いご飯の横に少しだけ添えられた卵入りピラフ。味変のアクセントのために添えたというさり気ないひと手間に洋食職人としての誇りが垣間見える。

BT013580.jpg

完成した「とんトクカレー」(950円)はその名の通り、コストパフォーマンスも高い一皿。豚肉や野菜の旨みやコクを引き出したカレーは、スパイス感がありながら豆腐の存在でマイルドに。カツの肉は柔らかく、カレーのスパイスによって肉の旨み、甘みが引き立っている。

BT013573.jpg

しっかり水切りされた木綿豆腐は、約100gあるというカツにも負けない存在感。ボリュームもさることながら、高タンパクの豆腐を加えることで、栄養価の高い一皿に仕上がっている。

夫婦二人三脚で40年の歴史を紡ぐ

BT013585.jpg

カツの横に添えられた「ケチャップ味のスパゲティ」にも洋食のテイストが現れている。

原川さんは西武沿線に住んでいたこともあり、40年前、清瀬に店を構えることに。面白いことに最初からとんかつ店としての立ち上げを考えていたわけではなく、現在の物件に出合ってから「この店構え、スペースで何をするのが良いか」を考えてたどり着いたのが、とんかつの店だったのだとか。

とんかつはオーダーが入ってから肉を切り、衣をつける。とんかつソースやタルタルもすべて手作り。
そんな職人肌の原川さんを支えるのは女将さんだ。常連さんと「いつもの」で通じるコミュニケーションは、これまで店が紡いできた歴史を雄弁に物語る。
とんとんの豆腐入りカツカレーは、「清瀬のソウルフード」としてこれからも長く愛されていくだろう。

※価格はすべて税込
※営業時間、販売商品、価格等が変更になる場合がございます。
※写真、記事内容は取材時(2018年11月21日)のものです。