国分寺から歴史を紡いできた名喫茶
重厚な木扉を開けると、店内にも赤レンガが印象的に配されており、入口側にある電話ボックスが目を引く。
実はこの店、歴史が古い。現オーナーのお父さまが国分寺駅北口の目の前に「珈琲専門店アミー」をオープンしたのは1963年だ。開店当初からコーヒー専門店として営業し、各生産国の最高品質を決める品評会「カップ・オブ・エクセレンス」の豆を使用。また、当時はコーヒーを淹れる技術を持つ人が少なかったため、豆の仕入先を通じて専門技術を持つ職人を紹介してもらっていたのだとか。当時、周辺には喫茶店がほとんどなく、ましてや本格的な珈琲専門店という存在はめずらしかったため、界隈での先駆け的存在だったという。
国分寺には大学も多く、アミーでもたくさんの学生たちがアルバイトをしていたという。少し年の離れたオーナーは、兄のような父のような気持ちで見守っていたのだとか。
「その時の思いがあるせいか、アミーという存在そのものを残していきたいと思っているんです」。懐かしそうに話すその姿から、当時の「アミー」がオーナーにとっても、スタッフやお客さまにとっても、いかに大切な場所であったかが窺い知れる。
小手指に移転。かつての店内を可能な限り再現
かねてから計画されていた国分寺駅北口の再開発が本格化し、「アミー」の入っていたビルも取り壊しが決まった。2013年に移転が決まった際も、店には惜しむ声が多く寄せられたという。
国分寺の店舗はビルの2階ワンフロアを使い、約60坪という大箱。移転後もぜひ国分寺で再開してほしいというファンからの声もあり、国分寺での再開を目指したものの、フロアの広さを再現できるような物件が国分寺にはなかった。そして、たまたま見つけた小手指の物件で再オープンしたのが2015年。かつてのように広々としたスペースでの復活となった。
再オープンにあたっては極力、国分寺の店舗の雰囲気を再現したかった。そこで梁や壁画、椅子やテーブルなどの調度、照明などをそのまま移設し、当時の店内に限りなく近づけている。
かつて店を彩った「珈琲採集図」も、新しい店舗に掲げられている。現在も国分寺時代の常連さんが訪れることが多く、懐かしそうに過ごしていくという。
初めて訪れてもどこか懐かしさを感じる。それはきっと国分寺時代の面影をしっかり残した佇まいが醸し出す空気なのだろう。
サイフォンコーヒーを楽しめる専門店
"珈琲専門店"の名を冠する通り、メニューにはストレートやブレンドはもちろん、ダッチアイス、ウィンナー、ルシアンなど、幅広いジャンルのコーヒーが並ぶ。
ストレートコーヒーはブラジルやグァテマラ、ブルーマウンテンなど8種前後。ブレンドも4種揃えている。カウンターに置かれたサイフォンで淹れるコーヒーは薫り高く、それぞれの豆の味わいをしっかりと再現してくれる。
「特製ブレンド」(528円)は香り豊かでふくよかな味わい。
コーヒーにはストレート以外にもさまざまな楽しみ方がある。例えば、アーモンドローストとホイップクリームをトッピングしたアーモンドオーレ。ミルク感豊かなラテに香ばしいアーモンドスライスがアクセントとなり、疲れた体と心を癒す一杯だ。
たっぷりトッピングされたクリームを溶かしながら楽しむ「アーモンドオーレ」(660円)
コーヒーのお供にぜひ味わいたいのはスイーツ類。店内で焼き上げるワッフルはふんわりと香ばしい。たっぷりと添えられたクリームと一緒に頬張れば、きっと幸せな気持ちに包まれるはず。また、カカオをふんだんに使ったガトーショコラも満足感でいっぱいになるボリューム感。14〜16時はワッフル、ガトーショコラ共にハーフサイズもあるので、のんびりとティータイムを楽しむのも良いだろう。
大きなワッフル4枚、クリーム添え(715円)。アイスコーヒーとのセットは1,045円
ボリューム感のある「ガトーショコラ」(495円)
また、「アミー」では軽食類も充実。なかでもおすすめなのが特製チキンライスだ。チキンライスというとケチャップ味をイメージしがちだが、「アミー」ではオーナーがタイで出会ったという、アジアンテイストにアレンジしたチキンライスが味わえる。ジューシーな鶏肉の上にかかっているのはとろみのあるブラックソース。別添されるナンプラーやネギ塩油を加えれば、よりエスニックな味わいが際立つ。喫茶店のチキンライスのイメージを大きく覆す一皿だ。
「アミー特製チキンライス」(単品 935円、ドリンクセット1,265円)
いずれは国分寺で「アミー」を再開したいと話すオーナー。「アミー」とともに時を重ねた常連さんのために、階段のない1階で開業したいと考えているという。
「なかなかいい物件がないので、いつになるかわからないんですけどね」といいながらも、いつの日にか国分寺に復活する「アミー」の姿に思いを馳せる。
オーナー、スタッフ、常連客。たくさんの人の思い出が詰まった名喫茶は、これからも多くの人に愛され、たくさんの思い出を紡いでいくのだろう。
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※写真、記事内容は取材時(2019年4月3日)になります。