機械打ちのうどんにこだわる理由
ガラス張りの扉を開けると、オープンキッチンに鎮座する製麺機が目に飛び込んでくる。厨房を囲んでカウンターが設えられ、その脇にテーブルが二組。
この日、店を訪ねたのはランチタイムも落ち着いた15時過ぎ。それでも常連さんと思しきお客さまがひとりふたりとやってきて、慣れた手つきで券売機のボタンを押していた。
「手打ちのほうが聞こえも良いし、カッコいいんですけどね」と笑う店主の嶺さん。それでも製麺機のうどんにも優れた部分があるという。
「手打ちだと自分の加減でどうしてもブレが出てしまう。機械だと安定した品質を保てるんです」。
季節や環境によって微調整はするものの、設定に忠実な仕事をする機械は、嶺さんにとって有能な相棒だ。
万一、営業中に麺が不足してもすぐに対応ができる。ランチ時以外、基本的には生地作りから提供まですべてをひとりで行う。休憩タイムをもうけることなく夜21時まで営業することを思えば、とても理にかなっている。
万人に愛されるうどんを提供したい
2016年12月の開業当初はコシの強い麺を提供していたが、年配の方やお子さんでも食べやすいように麺を細く短めに改良。たどり着いたのは、武蔵野うどん程の強い主張はないものの、適度なコシを残す喉ごしの良い麺だ。
ダシにはいりこと昆布を中心に、うるめや宗田節、さば節、花がつおなどを使用。毎日食べても飽きのこない、穏やかでやさしい味に仕上げている。
バリエーションのあるメニューづくり
商品開発にも積極的で、「幅広いうどんの魅力を楽しんでもらいたくて」と考案したのが「旨辛つけうどん(700円)」。自家製ラー油が効いたつけ汁に、豚バラ肉やネギを加えたピリ辛味。辛さの中にフワッと広がるダシの旨味と甘みが程よく、食欲をそそる一杯だ。
もう一品は「カレーうどん(850円)」。ベースのうどんダシを感じつつもクリーミーで洋風。いわゆる「おそば屋さんのカレーうどん」と比較するとスパイスが効いていて、個性が立っている。
また、トッピングの天ぷら(130円〜)はオーダーが入ってから揚げたてを提供。だし醤油やだし塩が用意されているのも嬉しい。
地域に寄り添い、地域と共に歩んでいきたい
住宅地に囲まれた桜台駅周辺は、隣の練馬駅などに比べ個人店が育ちやすい環境にある。飲食店同士のつながりもあり、「どん伝」も地域イベントに積極的に参加しているという。
また、ポイントカードはどのメニューでもスタンプがつき、10個たまればどの商品でも一杯無料。なんとも気前が良い心意気だ。これも地元で足繁く通ってくれる人への感謝の気持ちなのだ。
徳之島を出て歯科技工士やリサイクルショップの工場長など、紆余曲折の人生を歩んできた嶺さん。80歳までできる仕事をしたいと一念発起して、各地のうどんを食べ歩いたという。50代半ばで始まった「どん伝」の歩みがこれからも楽しみだ。
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