異業種から独学で立ち上げたベーカリー
「楽楽」が店を構えている敷地は岳也さんのお父さまが所有していた土地。岳也さん自身も川越で生まれ育ったそうです。以前はふたりとも全く別の仕事をしていましたが、地元に戻って仕事をしたいと考え、この地でベーカリー開店を目指すことに。知人の店でノウハウを教えてもらうことはあったものの、ほぼ独学で試行錯誤を繰り返しながら作り上げていったそうです。
「最初の頃はクレームや口コミのマイナスコメントなどを全部書き出して潰していく作業をしていました。本当にお客さまに育てていただいたんですよ」と祐子さん。お客さまの声をダイレクトに受け止め、改善していくことで商品を磨いていったといいます。
生産者のもとに足を運ぶからこそ見えてくること
楽楽がオープンして2年経ったごろ、転機が訪れます。きっかけは「これから国産小麦を扱う人は生産者とつながることが大切」という声。かつて野菜のバイヤーをしていたことがあり、几帳面な人のレタスは巻きがしっかり、おおらかな人のレタスはふんわり育つなど、農産物は作る人によって育ち方が違うと実感していた岳也さん。小麦生産者の人たちのもとを訪ね、直接小麦について学ぼうと北海道に足を運ぶことに。
小麦は製粉され、パンやうどんなどになって初めて味わうことができる食材です。さらに他の生産者が育てた小麦と一緒に製粉されるため、生産者は「自分の小麦の味」を実感することが意外と難しいのだとか。これも現地で生産者の人たちと語り合ったからこそ気づいたこと。生産者の思いを知るにつれて「こんなにみんな頑張っているんだ、この人たちの思いをパンにして届けるのが自分の仕事なんだ」という思いが強くなっていったそうです。
また、小麦は粉の状態で店舗に届きます。そのため、スタッフにとっては小麦が農産物だとイメージしにくいもの。そこで小麦の花穂を見学したり製粉会社を訪ねたり、時には牧場で乳搾りやチーズ作りをしたりと、今では社員全員での研修旅行が毎年の恒例になっているそうです。
素材のブランドよりも製法にこだわることでみんなが幸せに
北海道産小麦以外の素材へのこだわりを尋ねると、「今は『〇〇産のものを使わなければいけない』といったこだわり方はあまりしていません。店を始めた当初は技術が足りていなかった分、良いものを使っておいしくしなければと思っていたんです。でも今は特別なものを使うことより、技術や製法でおいしいものを作れるように心がけています」とのこと。
そのひとつがプレミアム食パン(1斤350円)の長時間低温発酵。必要最低限の酵母で18時間かけて低温発酵させています。バターの代わりに生クリームを使っており、驚くほどしっとり柔らかくて甘みのあるリッチな生食パン。向かいのサンドイッチパーラーでも使用されています。
実は長時間発酵を取り入れることで意外なところにも効果があったそうです。それはスタッフの労働環境の改善。発酵時間が短ければ、遅い時間にしかけて翌朝早く焼き始めなければなりません。生産性は上がりますが、自然とスタッフの拘束時間が長くなってしまいます。
「今の時代、スタッフの労働環境を守ることも重要。スタッフが幸せじゃないとお客さまにも喜んでいただけるものは作れないですからね」。実は祐子さんは元キャリアコンサルタント。スタッフを大切に考えた環境づくりには、その時の経験が活きているのかもしれません。
「うちは本当にスタッフが自慢。このランキングもイラストが得意なスタッフが手描きしてくれたんですよ」。祐子さんの思いはスタッフにもしっかりと届いているようです。
スタッフのモチベーションを上げる商品開発
「メロンパンはベーカリーの中で人気商品。でもうちでは万年4位くらいの微妙な位置だったんです」。
祐子さんの「このメロンパンをもっと人気者に」というリクエストに応え、スタッフはプロジェクトを組みレシピをリニューアル。試行錯誤の末、外をザクザクのクッキー生地、中をふんわりしたブリオッシュ生地にして食感にコントラストをつけることで見事大ヒット!「ブリオッシュ生地が足りない!」なんて嬉しい悲鳴が聞こえる日もあるそうです。
菓子屋横丁に店を構えるという意味
川越観光において大きな位置を占め、100年以上続く横丁の中で「楽楽」は新しい顔。それでも老舗の飴屋さんと一緒にコラボするなど、すっかり溶け込んでいるようです。
観光客の多い横丁の中で「楽楽」は「地元の人を呼び込む役割を担っている」と祐子さん。観光の合間に立ち寄る人も多いけれど、毎日食卓にのぼるパンを売る「地域の店」としてこそ矜持があるといいます。
祐子さん曰く、ベーカリーの喜びは小さな幸せをたくさん作り出せること。
川越に足を運んだら、ぜひ"幸せのパン"を味わいに行ってみませんか?
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