「麺が主役」のラーメン。その味は入間っ子に絶大な人気
バス通りに面した黒い建物の一角にある「麺.SUZUKi」。入口横に「麺が主役のらぁ麺屋!!」と書かれています。そう、この店は自家製麺を売りにしている、入間市内で屈指の人気店。
ウッド調の素材を使ったカフェのような店内にはテーブル席とカウンター席が並んでおり、入ってすぐ左には券売機が置かれています。
今回は「醤油らぁめん」(850円)と店主おすすめの「わんたん麺 鶏と水・塩」(1,300円)を実食します。「栗豚のローストポーク丼」(480円)のポップを見ていたら、「それ、めちゃくちゃ出ますよ」と店主の鈴木貴弘さん。その一声につられ追加オーダー。
麺のおいしさはもちろん、素材の香りとダシ感を大切にしたい
「わんたん麺 鶏と水・塩」は、4種の地鶏と水のみで作る珠玉の一杯。この日は比内地鶏、名古屋コーチン、青森シャモロック、長州黒かしわを使っていました。キラキラと鶏油が浮かんだ黄金色のスープは鶏の旨味が凝縮された、塩角のないまろやかな味わい。
鈴木さん自ら厳選した地鶏を使い、部位のセレクト、火の入れ方、温度帯の違いによるダシの出方を徹底的に研究。何度も試行錯誤を重ねた結果、旨味や香りを100%引き出すことに成功しました。
一方の「醤油らぁめん」は、煮干しやカツオ節の和ダシが効いたスープに手揉み麺。鈴木さんが「『鶏と水』は通好みの味なのに対し、こっちはダシ感を立たせた"じんわりおいしいラーメン"がコンセプト」と言う通り、スープを口に含んだとたんに魚介の鮮烈な芳香が押し寄せます。
ぷるぷると唇をくすぐる手揉み麺、ハーブが香るしっとりチャーシューはどれも個性的。その個性が突出するのではなく、麺とスープ、そして具材がお互いの存在を高め合うような、非常にバランスの取れた味わいです。半分ほど食べたあたりから、スープの味は魚介優位から動物系優位に。そうした細やかな味の移ろいは満足度をさらに高めます。
那須御用卵が艶やかに乗った「栗豚のローストポーク丼」。栗を食べながら育った栗豚は肉質が柔らかく、甘い脂身は口の中でさっと溶けていきます。その食感と口溶けがベストバランスになるよう、わずか1.1mmの薄さでカット。赤ワインやタマネギをベースにした特製ソースはあっさり仕立てで、栗豚の味を邪魔しません。
小学生から料理を始め、好きだったラーメンの世界へ
入間市で生まれた鈴木さんは、母親の影響で幼少期から台所に立っていたそう。「小学2年生の時に袋入りのラーメンを初めて一人で作って、そこから料理にハマりました。高学年になり学校の料理クラブに入っていたくらいです」。好きなごはんを自分で作るのが何より楽しい。鈴木さんの原点はインスタントラーメンにあったのです。
独身のころは毎日の自炊と、たまにラーメンを食べ歩くのが趣味だったと語る鈴木さん。「大抵の料理は作れますけど、自宅でスープから自作するは難しいので、ラーメンだけは外で食べていたんです」。29歳の時、地元で開催されたお祭りで焼きそば店をやった経験から飲食業界で働くことを決意。すぐさま都内のラーメン店に入社し、その後県内の有名店「麺家うえだ」に弟子入りします。
修業時代に麺の奥深さを知った鈴木さんは、2015年12月に"麺が主役"をテーマに「麺.SUZUKi」を創業。当初は3社の製麺所から仕入れた麺をメニューごとに使い分けていました。
自家製麺に切り替えたのは「鶏と水」を考案した時のこと。馴染みの製麺所に試作を頼みましたが、何度やっても理想の食感にたどり着けません。せっかくスープが完成しても、理想の麺が手に入らなければ商品化はできないと、自家製麺に挑戦したのです。
ちょっとの工夫でおいしくなるなら、手間は惜しまない
「麺.SUZUKi」の朝はスープの仕込みと麺打ちから始まります。「鶏と水」に使う麺は一晩熟成させ、「醤油らぁ麺」には毎日打ちたてを用意します。「『鶏と水』の麺には4種類の小麦粉をブレンドしていて、しなやかな食感と啜り心地の良さ、コシを出します。『醤油』の方は手揉みを加える都合上、打ちたてのふんわりとした生地のまま使います」。
自慢のワンタンは比内地鶏と金華豚の2種が用意されます。「うちは皮も自家製です。ワンタンは『雲を呑む』って書くでしょう? 雲のようにふわふわな皮と肉のしっかりとした食感とを出すために、13~14グラムの肉を厚さ0.55mmの皮で包みます」。
レンジフードには無数の数字が書き込まれてます。聞けば、これらはスープを仕込む際の経過時間、水温や素材の割合などをメモしたものだと言います。「緻密に計算したり、数値化するって、今のラーメン作りには欠かせないと思っています」。こうした科学的なアプローチがあって、鈴木さんの味は成り立っているのです。
創業からこれまで、「どんどん手間のかかる方向に進化してきた」と苦笑いする鈴木さん。しかし、その裏には「あとひと工夫を加えたらもっとおいしくなるのでは?」という飽くなき探求心があります。「だって、おいしくなればお客さまは幸せでしょ? 僕だってそんなお客さまが1人でも増えてくれたら嬉しいですからね」。
その根底には、初めて一人でラーメンを作った時の母親の笑顔があるのかもしれない。
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