持ち帰りもできる良質な食材

「むぎきり」で使用している粉は「さとのそら」。群馬の小さな製粉会社で、県産の地粉をお店のために挽いてもらっている。「製粉したてをすぐ送ってもらってるから、粉の香りがいいんですよ」と店主の松村好洋さんは話す。
さらに洗練されたなめらかな食感を加えるために、北海道産の小麦粉を少しミックスしているそうだ。また、ダシの材料には枕崎の最高級本枯節を取り寄せている。「うちはたいした店ではないけど、材料だけはいいものを使ってます」と好洋さんは謙遜する。

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「手造り具だくさん春巻」(450円)「自家製こんにゃく」(200円)など、 一品料理にもそれぞれ固定ファンがいるのだそう。
うどん以外の一品料理もすべてが手間ひまかけた自家製で、たとえば下仁田産のこんにゃく(さしみ田楽)は、プレーン、青のり、七味とごまの、美しい3色仕立て。酢味噌と一緒におみやげとして買って帰るお客さんもいるそうだ。

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ほかにも、放し飼いの鶏の卵や、季節によっては有機栽培で天日干しの切り干し大根など、厨房で使っている良質な食材やメニューの一部も購入可能だ。レジ横には持ち帰り用の商品が並んでいる。

だしぬけに家業を継ぐことに

「むぎきり」のオープンは1991年。父親が始めた店を、現在は好洋さんがお母さまとともに切り盛りしている。
「もう20年近く前になりますが、親父が急死してね。それで急遽、僕が継ぐことになっちゃった」。
継ぐつもりも予定もなかったのに突然、現場に放り出された格好だった。

「葬儀などで店を閉めていましたが、数日後に営業を再開。わけもわからず、僕は初日から指を切ってしまいました。いまでもその傷が残ってるんですよ」。

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好洋さんは学生時代にちょっとだけ店を手伝ったこともあったし、じつはお父さまが別の場所で新しく始めたラーメン屋を半年ばかり手伝っていたところでもあった。
「それだけを頼りに試行錯誤......というか、さすがに無謀でしたよね。 でも、早く店を開けて、やりながら勉強しろと言われてね」と好洋さん。

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止むに止まれぬ事情で仕方なく。それから早18年。古参のお客さまも変わらず来てくれるし、新規のお客さまもついた。
「最初は気もまわらなかったし、仕事も遅かった。お客さまと話すようなゆとりができたのは、ここ6~7年かな。もしかしたら、お客さまと話す時間をつくるために、早く閉めるようになったのかもしれません」

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不動の人気メニューのひとつ「天ぷらうどん」(1,400円~)は、海老(特大!)のそのときのサイズによって値段が変動する。

この先も続けていくために、無理はしない

営業時間は昼は3時間、夜はたった2時間半と正直、とても短い。でも、お客さまのほうもそれを承知していて、夕方は開店と同時に入店し、一杯やってうどんを食べると、1時間ほどで清々しく帰っていく。
「昔はもう少し長くやっていたけれど、母も歳だし、長く続けていくことを考えると、あんまり無理できなくてね。夜はほとんど常連さんしか来ないけど、それでいいんです」

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近辺では跡取り不在で畳む店も多く、「むぎきり」のある通りにも、もう数店しか残っていない。「うちも、いつまでできるかわかんないけど」と好洋さんは言うけれど、食材に妥協せずにすべてを手づくりする姿勢と現在の営業形態は、長く継続していこうという前提に立ってのこと。そして、それはきっとお客さまにも伝わっていると思うのだ。

※価格はすべて税込
※営業時間、販売商品、価格等が変更になる場合がございます。
※写真、記事内容は取材時(2017年4月18日)のものです。