"宮武うどん"が東京で食べられる

住宅街にぽっかり開けた空き地。こんな広々とした景色を目の前にしていたら、日々きっと気分良く仕事ができるだろう。小笠原浩二さんは3年半前に「こげら」をオープンした。讃岐では知らない人はいないという伝説の"宮武うどん"を継承している。

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「麺をつくる際、踏み、折りたたむ作業を繰り返します。通常3、4回ほど行うところを、宮武うどんは7回やるんです。麺に層ができ、お湯が浸透しやすくなって早く茹で上がる。手打ち独特のゴツゴツした食感も特長ですね」と小笠原さん

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だしも常識破りな取り方で、「いりこ、削り節、昆布で10回、雑味が出るくらいまでだしを取りきります」とのこと。それなのにすっきりとした味わいになるのが小笠原さんいわく「ミラクル」だ。また「こげら」では、東村山の老舗、豊島屋酒造の水をだしに使っているのも特徴。地下150メートルから汲み上げた富士山の伏流水を濾過し、純水に近いやわらかさをもっている。

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武蔵野うどんの地で讃岐うどんが受け入れられるかどうか、はじめは不安もあったそうだ。しかし、うどん文化が根づいた土地であったのが逆に功を奏した。「讃岐うどんが近所で食べられるようになって良かった」という声をもらったのだ。

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人気の「こげらセット」(500円)はすぐに売り切れてしまうそう。このゲソ天の大きさたるや、お客さまから安すぎると心配されるほど。

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目指すは、こげらのような存在感

野鳥好きの小笠原さんがつけた店名「こげら」とは、キツツキ科の鳥の名前。あまりメジャーではないけれど、じつは身近な鳥で、派手さはないけれど親しみやすい。そんな存在の店にしたかった。

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それに、お客さまがこの店をきっかけにこの鳥の存在を知ったら、まわりの風景を見る目が変わるかもしれない。その結果、人生がほんの少し豊かになるかもしれない。そんな期待も込められている。

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また、こげらは決まったパートナーと最後まで添い遂げる鳥らしい。家族を大事にしたいという気持ちも込めたのだという小笠原さんに、「すべてが美しくまとまってますね」と言うと「最後のは後づけですけどね(笑)」と返ってきた。しかし、転勤が多かったという会社員時代より、今のほうが家族と一緒に過ごす時間が増えたのは確かだ。

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ひとりだからできること

「昔、讃岐うどんがブームになったときの逸話で、お客さまが大将にネギを頼んだら『裏の畑から採ってきて自分で切りな』と言われた、なんていうことがあったそうです。そんな、なんでもありなゆるさこそが讃岐の本質だと思うんです」。

でも、"ゆるさ"は"気楽さ"とか"楽ちん"というのとは違う。たとえばうどんの価格が200円(小)からと破格なのは、本場の讃岐うどんの価格で楽しんでほしいからこそ。本場とは物価も環境も違うはずだが、小笠原さんにとって、讃岐プライスで提供することも本場を再現する大事な要素なのだ。

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ぎりぎりの価格設定のため、人を雇う余裕もない。
「ただ、ひとりでやってるとけっこうお客さまが助けてくれるんです。ひどいときには電話に出てもらったり(笑)。バイトさんがいたら、こうはいかないですよ」と小笠原さん。

特に高い目標があるわけではないが、強いて言うなら長く続けたい。そのために夜営業をやめ、営業時間は昼の2時間だけにした。営業時間が短いから楽なのかというと、決してそうではないはずだ。短時間にすべてを凝縮し、売上を立てていかなければならないのだから、むしろ厳しいともいえる。こげらの心地よい"ゆるさ"は、店主の強い意志でこそ実現するものだ。

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