前職はラーメン店経営!ケーキ作りは独学で習得

おとなふたりが入ればいっぱいになる4坪の店内。小さなショーケースの中に並ぶシフォンケーキたちが、おいしそうにほほ笑みかけてくる。
奥に立つのは、オーナーシェフの高橋幸博さん。かねてからの夢だったシフォンケーキ専門店を、2017年に開いた。

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シフォンケーキだけで勝負という潔さ。そしてお客さまが次から次へとやって来る人気ぶり。以前はさぞや高名なパティスリーでご修行を......と思いきや、
「スイーツ店での修行経験はありません。すべて独学で始めました」。(高橋さん)
さらに高橋さんの経歴を聞いて驚く。この店を開く前は、上井草で「らーめん三獣使」や「中華そばBEAST」、「豚らーめん獣道」といったラーメン店を営んでいたという。メディアにも取り上げられる行列人気店だったが、それをスパッと閉店させ、スイーツの世界へ突然の転身。ファンや同業者に衝撃を与えたのは想像に容易い。
「『煮干し味のケーキでも作るのか!?』なんて言われましたね。ラーメンも独学で立ち上げて、自分にしかつくれない創作ラーメンを追求してきました。そして10年の節目を迎え、自分の中で"やりきった"という想いが強くなったタイミングで、ずっと始めたかったスイーツの店を出すことを決めたんです」。(高橋さん)

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大好きなスイーツの中でもシフォンケーキを選んだ理由は、シンプルだがバリエーションは無限大なこと。そして自分ひとりでまかなえること。
「シフォンケーキのレシピやあらゆる有名店を研究し、シフォンケーキづくりに専念してから2ヵ月後には店をオープンさせました」(高橋さん)
味については後述するが、これほどハイレベルなシフォンケーキを独学でつくり上げてしまうセンス、そして行動力。聞けば聞くほど、感服させられるばかりだ。

シフォンケーキの要はメレンゲにあり

「良い材料でつくると、やっぱりおいしさが変わります」と高橋さん。卵は茨城県産のブランド卵「奥久慈卵」。香り豊かな小麦粉は、北海道産「ドルチェ」(薄力粉)と「春よ恋」(強力粉)をブレンドして使う。ベーキングパウダーなどの添加物は使わず、素材の力でピュアなおいしさを生み出す。

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卵6個分の卵白に砂糖を加え、業務用のハンドミキサーで約2分。メレンゲの艶と角の立ち具合で9分立ての状態を見極める。手動のホイッパーで泡を均一に仕上げて完成。

シフォンケーキの魅力といえば、ふわふわの食感とやさしい口どけ。その要となるのが卵白でつくるメレンゲだ。
「シフォンケーキはやわらかな食べ心地のなかに、適度なコシと弾力も必要。メレンゲを8分立てにとどめるレシピが多いですが、基本のプレーンシフォンケーキの場合は、僕は9分立てがベストだと思います」(高橋さん)
高橋さんがハンドミキサーを手にすると、まるで音楽を奏でているようなリズミカルな音がする。あっという間に艶やかでクリーミーなメレンゲに変化していく。単純な作業に見えて、こうも違うものなのか......達人の技術に脱帽だ。

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焼き上がった「プレーン」(260円)を頬張ると、ほのかに漂う卵の香りに包まれる。しっとりふわふわ!軽やかな口当たりでありながら、生地の存在感はしっかり。なめらかに口どけて後口もいい。香ばしく焼けた表面の甘さもたまらない。すべてが絶妙のバランスなのだ。卵や粉や砂糖といった慣れ親しんだはずの素材のおいしさに、あらためて気づかされた。

創意あふれる、90種類以上のフレーバー

そして「シフォンケーキのお店 C.C.C. 」の凄さは、独創的なシフォンケーキのバリエーションにある。その数なんと90種類以上!
メニューを見ると、お茶やチョコレート、フルーツなどを使ったものから、野菜やスパイスを使ったものまですこぶる多彩。定番のプレーンと合わせて、日替わりで5~8種類が登場する。

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これだけ種類が多いのに、ひとつひとつの完成度の高さには目を見張る。
「入れる具材の水分量や甘さを計算して、卵や砂糖の量を1g単位で調整します。粉の配合もすべて変えるし、水分も牛乳や水を使い分ける。シフォンケーキは懐が深く、ルールがないのがおもしろい。ラーメンのときもそうでしたが、アレンジを考えるのがやっぱり好きなんですよね」(高橋さん)

この日にいただいた「コーヒージャム」(270円)は、まるで上等なコーヒーをごくごく飲んでいるかのような香り高き味わい。甘く優しい味の「バナナ」(300円)も、生のバナナと乾燥バナナのコクを活かした逸品だ。確かな実力とセンスに裏打ちされた、緻密な計算。
変化球に見えるメニューもひと口食べれば、想像のはるか上をいく感動に出会えること間違いなしである。

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無添加でシンプルだからこそ、つくり手の姿勢がそのまま伝わるシフォンケーキ。
「わざわざ足を運んで買いに来ていただくんですから、専門店のうちでしか味わえないシフォンケーキを極めたい。直球も変化球も磨き続けます」と話す高橋さん。
よくぞこの店を開いてくださった、と感謝せずにはいられない。

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