地元愛にあふれた地域密着型のインド料理店
商店街の中でもひときわ異彩を放つ、黄色い看板にインドとネパールの国旗。店の前を通ると、香辛料の良い香りがふわっと漂ってくる。
野方の北原通り商店街に「野方キッチン」がオープンしたのは、今から約11年前。店主のタパ・ダマールさんは祖国インドで調理師として働いていた経歴を持つ。
「インドで働いていた時、たまたま出張で日本を訪れたことをきっかけにすっかり日本が好きになり、移住してインド料理の店で数年間勤務。その後、独立してこの店をオープンしました」 。日本に来てかれこれ15年以上経つというタパさんは、とても流暢に日本語を話す。日本の風土が自分に合っていたそうで、たしかに会話していると、日本人的な感覚を持っているように感じられる。
「日本に来てすぐの頃、友人が野方に住んでいたので何度もこの辺に来ることがあって、当時から住みやすい街だなと思っていたんです。うるさくないし、商店街は充実していて小さなスーパーやお弁当屋さん、居酒屋さんなどがそろっています。交通の便も良いし、店を出すならここが良いと思いました。電車の遅延で店が開けられないということがないように、今は私もこの辺に住んでいます」
静けさと利便性を好み、時間はきっちり守る。そんなタパさんが野方という土地に馴染むのは簡単なことだったが、店の経営となると話は別。オープン当初は苦労の連続だったという。
「石の上にも3年」の精神で切り抜けたオープン当初
今では北原通り商店街に無くてはならない存在の「野方キッチン」だが、最初の数年は苦労が絶えなかった。
「お店を始めて3年くらいはお客さまが入らなくて大変でしたね。スタッフは私ともうひとりだけで、どうやったらお客さまが来てくれるか試行錯誤していました。いろんなサービスを始めてみたり、チラシを作って配ったり。経営が苦しく、友達にお金を借りたことも。結構大変だったけど、あきらめないで頑張ろうと思って。3年経ってやっと安定させることができました」
どんなに大変な状況でも3年は踏ん張ろうと決めていたというタパさん。日本人の好きな味、量、匂いを研究したり、お店を清潔に保つようにしたりと、お客さまが足を運んでくれるように3年間必死に取り組んできた。
「その結果、リピーターのお客さまが増えました。その頃に研究したことは今も続けていて、中には10年間ずっと来てくれている人もいます。当時お腹の中にいた子が大きくなってナンを食べに来てくれたり、そういうのはすごく嬉しいですね」
野方というローカルな場所だからこそ、店を存続させるにはリピーターの獲得が不可欠だ。店の入れ替わりが激しいという商店街の中で「野方キッチン」が10年以上続いているのは、そういった地道な努力の結果にほかならない。
材料費を度外視した価格設定が成功のカギ
「野方キッチン」が実践してきたリピーターを増やすための努力のひとつに、低めの価格設定がある。 カレーとナンのセットは640円~。都心のカレー専門店では平均1,000円前後と考えると、かなり安価だ。もちろん、材料費などは度外視した価格だという。
「『おいしかった、サヨナラ』じゃなくて、『おいしかった、また来よう』と思ってもらうには、安くする必要があったんです。テイクアウトのランチセットは500円~、月曜日と木曜日にはお酒も半額で出しています。もちろん売り上げも大事だけど、それよりもお客さまが食べて満足して、またお店に帰ってきてくれることの方が大事だから」。
そういった経営努力が実を結び、現在では地元の人のみならず鷺宮、沼袋、都立家政、高田馬場などの新宿線沿線に住む人や、遠くは千葉から訪れる人もいるそうだ。
手間隙かけた自慢の本格インドカレー
やはり店一番の自慢は、手間隙かけて作られたこだわりのインドカレーだ。開店前、10種類のカレーそれぞれに合わせたベースを用意するところから1日が始まる。そのベースを元に、大鍋で一気に作るのではなく注文が入ってから個別で作るため、1つずつ辛さを変えることもできる。お子さまが食べられるくらいの甘口にもできるので、親子で食べに来る常連客も多いのだそう。
カレーの他にも、店内の窯で焼くインドの代表的な鶏肉料理「タンドリーチキン」やネパールの餃子「モモ」、タイの「生春巻き」など様々なエスニック料理がそろっている。一品料理はお酒にも合うものばかりだそうで、昼・夜どちらの時間に来ても楽しめるのが嬉しい。
「コックの仕事はお医者さんみたいで好き。食べる人の身体のことを考えて、おいしくて健康になれるようなものを作る」 と、コックという仕事に誇りを持って日本に移り住み、野方という地に根を張ったタパさん。そんな店主の地元愛と刺激的なエスニック料理を味わいに、ランチタイムや仕事帰り、ふらりと野方駅に立ち寄ってみてはいかがだろうか。
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