明治8年創業の老舗和菓子店が営む洋菓子店

「ミトヤホンテン」と聞いて、おやっ?と思った人は秩父通。そう、ここは秩父で140余年、5代続く和菓子屋「水戸屋本店」の店舗裏手でイートインスペースを持つ洋菓子店だ。

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「ミトヤホンテン」を語るには、まずは母体である「水戸屋本店」について知る必要があるだろう。現在会長を務める4代目松﨑守さんに「水戸屋本店」の成り立ちから洋菓子店が生まれた背景など、さまざまなお話を伺った。

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水戸屋本店を代表する銘菓「ちちぶ餅」

「水戸屋本店」は明治8年創業。元々熊谷で五家宝を製造していた「水戸屋総本店」で修業した初代がのれん分けされたのが始まりだそう。

水戸屋本店といえば真っ先に思い浮かぶのが「ちちぶ餅」(2個入り260円)。とろけるように柔らかい餅に甘さを控えたつぶし餡をくるみ「ちちぶ餅」の焼印。秩父を代表する土産菓子のひとつだ。「祭の湯」や「じばさんセンター」などでも買うことができるので、秩父に訪れたことがある人なら一度は見かけたことがあるだろう。

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この「ちちぶ餅」、4代目の松﨑守さんが考案したもの。本来、餅に多量の水を加えてつくる大福は日持ちしないため、夏には製造しないのが業界の慣習だった。そこで守さんは夏でも販売できるものを作りたいと試行錯誤を重ねた。そして当日売り切りで翌日までに食べてもらうことを前提にした大福を考案。これが35~40年前に誕生した「ちちぶ餅」だ。 販売当初、1日に3~400個売れていた「ちちぶ餅」は、今では1日2000個を売り上げる看板商品に。現在では「祭の湯」のおみやげ人気商品No.1にも輝く秩父銘菓となった。

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こだわりは北海道の最高級の小豆を使ったあん。毎朝4時半頃から一斗五升(約22kg)の小豆に砂糖を加え、じっくりと炊き上げる。あんを包む生地は餅米と砂糖、塩に水。いずれも材料は極めてシンプルだが、季節や日々の気温や湿度などの条件によって、繊細に影響を受けるデリケートな商品だ。現在もすべて店舗併設の工場で自家製造しているという。

「季節の変わり目、もち米の産地など、ちょっとした条件で仕上がりがまったく変わってくる。単にレシピに沿うだけではダメ。まさに"生き物"なんですよ」と守さん。常に安定した品質を保つためには、長年積み重ねてきた経験がものをいう。

30数年の時間を経て、店の看板商品になった「ちちぶ餅」。特に大きな宣伝を打ったことはないそうで「気づいたらここまで来たっていう感じだね、と良く妻とも話すんですよ」と笑う。

店の看板商品に新しい風を吹かす5代目との共作

現在、守さんは次男・功太さんに社長の座を譲り、会長として5代目を支えている。功太さんは大学進学中に菓子作りを志し、大学に通いながら夜間に専門学校で洋菓子の技術を学んだという。「菓子作りは大変だから継がなくてもいいって常々言ったんですけどね」そういいつつも、嬉しそうに目を細める4代目。聞けば守さん自身も洋菓子出身なのだとか。

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功太さんは洋菓子の製造を手がけながら、父と共に水戸屋本店の商品開発も行なっている。その中のひとつが「ちちぶ餅ロール」260円だ。
洋菓子出身の4代目・5代目がアイディアを出し合い、ちちぶ餅と生クリームをスポンジで包んだロールケーキ。すでに秩父土産としての地位を十二分に得ている人気商品をさらに進化させようという大胆な発想には驚かされる。

ふわふわのスポンジに甘さを控えた生クリームがたっぷり。クリームの中からは小さなちちぶ餅が顔を出す。食感の変化も楽しい新感覚スイーツだ。

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イートインで味わいたいフレッシュな洋生菓子

5代目が焼き上げるフレッシュな洋生菓子を、その場で楽しめるスペースとして水戸屋本店裏に「ミトヤホンテン」が誕生したのは5年ほど前。古い醤油蔵を譲り受け、そのまま活用したという店構えはなんとも趣がある。

この時期おすすめなのは、秩父産の新鮮なイチゴを使った「ちちぶっ娘」270円や「イチゴタルト」380円。「ちちぶっ娘」はイチゴの赤と生クリームの白、ピスタチオクリームのグリーンとアーモンドが香るカスタードの黄色と彩りも美しいエクレア。シューはさっくりと軽く、クリームも口当たり軽やかだ。また「イチゴタルト」はタルト生地にたっぷりのカスタード。イチゴと生クリームのデコレーションが愛らしい。アーモンド入りのタルト生地がなんとも香ばしく、後を引くほど。

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イチゴは5月頃までだが、それ以降も秩父の旬のフルーツを使った生ケーキやモンブラン、プリンなどの定番スイーツがメニューに並ぶ。秩父らしい佇まいの古民家で味わうフレッシュな洋菓子。秩父観光の思い出として、鮮明に五感に刻まれることだろう。

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伝統を守りつつ、多彩な商品を次々生み出す

近年、旅ブームもあり全国各地で数多くの土産菓子が販売されている。1万を売り上げればヒット商品、それを上回るためにはかなりの工夫と労力が求められる。140余年の歴史を誇る老舗とて、その努力は惜しまない。

「心がけているのは秩父産の食材を多く取り入れること。その土地を感じられることがお土産菓子にとっては一番大切なことだと思うんです」という4代目の言葉通り、メープル、幻のサツマイモといわれる太白芋、借金なし大豆など、秩父ならではの食材を使った多彩な菓子が誕生している。

新しいアイディアを提供する5代目の若い感性と、「まだまだ負けていられない」という4代目が培ってきた経験と誇り。「相乗効果で今が一番うまく回っている良い状態」という4代目の言葉に、この先が楽しみでならない。

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