雑穀から和菓子へ、歴史を重ねてきた老舗
「秩父 中村屋」は大正13年(1924年)に創業し、約100年の歴史を誇る老舗。木の温もりに包まれた日本家屋に大きな暖簾が掲げられた店舗は、どこか懐かしい気持ちになる佇まいです。
もともとは雑穀商として創業しましたが、当初から豆類を取り扱っていたこともあり、戦後から和菓子店に転換。店内にはまんじゅうやはもちろん、店のルーツでもある炒り豆や甘納豆などの豆菓子も並んでいました。
中でも一際目を引くのが、大きなカゴに入った「ちちぶまゆ」。秩父産メープルシロップを真っ白なマシュマロで包んだ秩父みやげの人気商品です。カゴ入り18個は1200円、袋入り3個入りは150円(中村屋店頭での販売価格)。
真っ白くてかわいらしいマシュマロを頬張ると、中から濃厚な秩父カエデ糖がとろ〜り。そのまま食べても良いのですが、中村さんから教えていただいた、とっておきの味わい方をご紹介。それは温かいコーヒーや紅茶に浮かべて、溶かしながら飲む方法です。「実はこれ、お客さまから教えていただいたんです。こうやって自由に楽しんでいただけるのは嬉しいですね」。
洋菓子のテイストが強い商品が、100年続く和菓子店から誕生したのにはどんなストーリーがあったのでしょう。
秩父でメープルシロップが作れる⁉︎
「ちちぶまゆ」を考案したのは、現在三代目として店を切り盛りする中村雅夫さん。「和菓子を好んで食べていた方たちの年代が上がってきたため、『なんとか若い世代にもアピールできる商品を考えよう、新しい商品を作ろう』と必死だったんです」。
秩父では、2002年に市内の菓子製造業者が「お菓子な郷推進協議会」を発足。地元食材を使ったブランド力のある菓子開発に取り組み始めました。
「秩父にはイチゴやブドウ、椎茸やキュウリなど、名産品が多くあります。ただ、どれも他に大きな産地があり、決定的ではないと感じていました」。
より印象的なものをと模索していた頃、秩父でメープルシロップが採れるという話を偶然聞いたそうです。
「林業の人に聞いてみたら、2月にイタヤカエデの林に入ると樹液が雨のようにしたたり落ちていると。でも彼らはそれがシロップになるとは思っていなかったんです」。
実際、国内でメープルシロップを生産していたのは、それまで山形県金山町だけ。中村さんたちは「秩父でもメープルシロップができるかもしれない」と、山の持ち主や行政など、多くの人を巻き込みながらメープルシロップ製造に向けて奔走します。
「シロップにするためには、採取した樹液を40分の1まで煮詰めます。1kgの樹液からできるのはたった25cc。非効率な作業ですし、始めた当初は採取量も少なく、市場に乗るのは約4ヵ月後。今の時代に受け入れられるのか不安でした。しかし良いものを作っている自信はあったので、結果が出ると信じていました」。
モンドセレクション受賞が大きな転機に
中村さんたちが次に挑戦したのは、世界的な審査会・モンドセレクションへの出品。協議会メンバーそれぞれが「秩父カエデ糖」として商品化されたメープルシロップを使ったお菓子を考案しました。
そして2008年、なんと初出品で全商品が受賞(金賞2、銀賞3、銅賞1)。「ちょうど北京五輪の直前でね。五輪前に秩父に6つもメダルが来た! とみんなで盛り上がりましたよ」と中村さんは懐かしそうに笑います。
中村さんが考案・出品した「ちちぶまゆ」は、この年から3年連続銀賞に輝いています。
モンドセレクション受賞をきっかけに、秩父カエデ糖の認知度は大きく変化。生産も安定し、地元の雇用創生にもつながっています。
「ありがたいことに『ちちぶまゆ』も秩父土産として知っていただけるようになりました。今は週に1万4000粒製造していますが、それでも追いついていないほど。次の一手も考えてはいますが、まだしばらく、その必要はなさそうです」。
老舗和菓子店が生み出した、秩父への想いが詰まった「ちちぶまゆ」。秩父を訪れた際には、お土産としておひとついかがですか?
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