秩父市に移住してきた夫婦が経営する"街の食堂"
秩父市立病院から北へ抜ける道沿いにポツンとたたずむ三角屋根の建物が「ふくくるしょくどう」です。元はベーカリーだったという山小屋風のかわいい店内は天井高のあるのびやかな空間。西武秩父駅から距離はありますが、店の近くには「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(あの花)に登場する定林寺、けやき公園といった聖地があり、同作ファンの間ではちょっと知られた店だとか。
店を切り盛りするのは元ホテルシェフの細野昌行さんと、管理栄養士のかの子さんご夫婦。娘さんの喘息やアトピーの症状を少しでも軽くしてあげたいと、2016年に立川市から秩父市に移住しました。「立川でお弁当屋さんをやっていたので、こっちでも飲食店をやりたいねと妻と話していたんです」と昌行さん。武甲山の中腹にある自宅から車で10分ほどの場所に物件が見つかり、店舗を改装したのちに「ふくくるしょくどう」を開業しました。
カレーや唐揚げを抑え、堂々の一番人気は麻婆豆腐
壁に貼られたメニュー表を眺めると、カレーライスや唐揚げといった街食堂の定番が並んでいますが、麻婆豆腐推しがやや強め。というのも、昌行さんはかつてホテル勤務時代に中華料理を専門としていました。
「うちの人気No.1と言ったらこれ」と、2人がおすすめしてくれた「麻婆豆腐」(950円)から実食です。器から花椒(ホワジャオ)がふわりと香り立つ四川風の味付け。挽肉や豆腐にしっかりと味が絡んでごはんが進みますが、口当たりは思いのほかあっさりとしていてペロリと平らげることができました。
お次は「THE MOON わらじかつ麻婆」(1400円)。実はこれ、狼が神の使いとされる三峯神社をイメージしたメニューだそう。かの子さんが笑いながら「わらじかつを狼の耳に見立て、卵の黄身はお月様ね。だから"THE MOON"なのよ」と教えてくれました。
わらじかつは豚肉ではなく鶏のささみ肉です。「お客さまに試食してもらったら『ささみ肉の方があっさり食べられるからいい!』ってなってね。柔らかくなるように、肉を叩いてから塩麴に漬けてるんです」と昌行さん。箸ですっと切れるほど柔らかな食感に仕上がっています。
四川と広東をいいとこ取りしたオリジナルの味がヒット
調理を担当する昌行さんは1973年に川越で生まれました。実家は今も続く中華食堂で、自身は和食居酒屋を開業するために18歳の時から和食店で修業を始めました。「その後、友人の紹介でホテルの中華に入ったのが20歳の頃です。居酒屋をやるならエビチリとか中華料理も覚えておくといいかもって思って」。そうして2人が出会ったのは今から十数年前。調理場責任者として昌行さんが勤務していた介護福祉施設に、かの子さんが管理栄養士として入社したのがきっかけです。
推しの麻婆豆腐について「四川と広東のハイブリッド系」と語る昌行さん。四川麻婆が挽肉を炒めてからさらに油で煮込むのに対し、広東麻婆は挽肉をボイルしてから調味するそう。「ふくくるしょくどう」では、ボイルしてから豆板醤や甜面醤を絡めて麻婆あんを作っています。「四川は油分が多いからどうしても重たい仕上がりになってしまうんだけど、広東風の調理技法を取り入れることでしつこくない口当たりになるんです」。
挽肉や各種調味料をブレンドした麻婆あんをストックし、注文の度に湯通しした豆腐とブレンドして提供。味をブレさせないための工夫と昌行さんが教えてくれました。
仕事は楽しく!が2人の原動力。秩父郊外の人気店に
「ふくくるしょくどう」の人気の理由は、どのメニューもボリュームが多いこと。盛り付けもユニークな料理が多いですが、昌行さんもかの子さんも決して"映え"を意識しているのではないそう。「夫がよく食べる人だから自然と多くなっちゃうのよ。ここはバイカーさんもよく来るから、この量でも平気で食べちゃうお客さんが多くて」とかの子さん。「それに、仕事って楽しい方がいいでしょう? 面白い盛り付けはそのせいかもね」と、お茶目な顔をしてみせます。
秩父市街地からはあまりアクセスが良くない場所にも関わらず、2016年の創業から着実にファンを増やしてきた「ふくくるしょくどう」。アニメファン、バイカー、大食漢ファン、そして地元の年配者と、さまざまな客層に支えられてきたと2人はしみじみ話します。
ボリュームの多さやユニークなビジュアルが注目されがちですが、人気の根底には、昌行さんの確かな腕が生み出すおいしい料理の数々と、かの子さんの朗らかな笑顔があるからと言えます。
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