寳登山神社参りのお楽しみは山麓に湧く天然水のかき氷

秩父神社、三峯神社と並び、秩父三社のひとつに数えられる寳登山神社。冬の終わりには寳登山の蠟梅が見ごろを迎えることもあり、長瀞駅から神社へと延びる参道には観光客の姿も。その途中におしゃれな建物が見えてきました。

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「阿左美冷蔵 寳登山道店」は埼玉県秩父郡皆野町に本店を構えるかき氷専門店の支店。"映えるかき氷"として、近年のかき氷ブームをけん引してきた名店です。

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店長を務めるのは皆野町生まれの阿左美亮二さん。高校を卒業後に社会人経験を積んでから父の経営する「阿左美冷蔵」に戻り、5年ほど前から寳登山道店を任されています。亮二さんによると店の創業は1890年と古く、もともとは秩父の天然水で作った氷を飲食店へ卸す製氷業を生業としていたそう。

「本家が日野沢(皆野町)の山間に氷池を造成し、そこで天然氷を作り始めたのがルーツと聞いています。私の曽祖父にあたる3代目が、現在本店がある皆野町金崎に氷問屋を建て、旅館や飲食店、お祭りの屋台にも氷を卸していました」。

1992年に生まれたかき氷。おいしさは評判を呼んでいった

「観光地として秩父が注目されるようになってからは寳登山麓にも氷池を作りました。これは1930年にできた寳登山麓の氷池で切り出しをしている写真です」。店に飾られた写真を指差して教えてくれた亮二さん。

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製氷業を初めて1世紀が過ぎた1992年、卸業のかたわらで父の哲男さんはかき氷事業を始めます。キャンプや川遊びで秩父にやって来る観光客に向け、当時は手回しのかき氷機で削ったかき氷を販売。
「シーズンを重ねるごとに口コミでお客さまが増えていったそうです。『地元で100年続く氷屋が作るかき氷』っていうのがめずらしかったんでしょうね。とはいえ、当時は多く売れても1日に30杯くらいだったそうですよ」。

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哲男さんが何よりこだわったのはかき氷の口溶けと果実味を生かしたシロップです。ふわふわの食感を生み出すのは0.1ミリ単位で調整されるかき氷機の歯。季節のフルーツで作るシロップは、商品化するまでに何度も試行錯誤を繰り返しました。
そして2010年代に始まった空前のかき氷ブーム。「阿左美冷蔵」も早くからテレビや雑誌で注目を集め、遠方からも客が来るようになりました。

まずは何もかけずに。味の濃淡を加減しながら天然氷を堪能

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店のイチオシ商品として作っていただいた「極みスペシャル つぶあん・白あん・抹茶あん」(1,500円)。10年ほど前からシロップ別添えのスタイルで提供しています。
「寳登山の伏流水はほのかな甘味が特徴です。まずは氷だけを味わっていただき、次にこの秘伝みつをかけて、途中で3種のあんを交互に混ぜながら食べるのがおすすめの食べ方です」
ふんわりと削られた氷はまるで青空に浮かぶ雲のように美しく、日の光にキラキラと輝いています。

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琥珀色をした秘伝みつは、氷と同じ寳登山の伏流水に和三盆糖を混ぜたオリジナル・シロップです。水の成分が同一なので味のなじみが良く、和三盆糖の甘味が氷の口溶けをさらに優しい印象にしてくれます。3種のあんは味変アイテムとしてプレミア感を演出。食後は梅干しで口の中をさっぱりと落ち着かせます。

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果実の味を楽しむなら「もも&ぶどう」(1,300円)。果汁ベースのシロップに濃厚な果実の香りが凝縮されているのをひと口目から感じます。それでいて甘味はじつに軽やか。氷を口に運ぶと同時に果実の香りが鼻を抜け、すぐに爽やかな余韻となって溶けていきます。

秩父の自然が生み出す天然氷で四季を感じてほしい

かつて秩父地域には同業社がいくつもありましたが、今も残っているのは「阿左美冷蔵」1軒だけ。温暖化の影響により寳登山麓の氷池にできる氷もだんだんと薄くなり、1シーズンに切り出せる天然氷の量は徐々に減ってきています。
「12月下旬から氷ができ始め、年が明けて七草の頃になると1回目の切り出しを行います。理想的な氷の厚みは15cmほどですが、この10年ほどは平均して11、12cmですね。今季は久しぶりに寒さが戻ったので14cmくらいの氷が採れました」
毎冬2回に分けて切り出した天然氷は店の冷凍庫にストックし、夏のハイシーズンを迎えます。しかし氷の採取量が少ないため、人工的に精製した純氷を店で使うことも多くなったそう。

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そして追い打ちをかけるように始まった新型コロナの流行。そこで、2020年からは寳登山麓の伏流水に店で使っている黒蜜をブレンドした水ようかんの製造を開始しました。「ようかん箱流し」(600円)、「ようかん瓶入り」(450円)はかき氷需要が下がる冬場にも安定した人気があります。

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空前のかき氷ブームにより一気に注目を集めた「阿左美冷蔵」ですが、亮二さんはその現象をいたって冷静に見つめていました。
「『儲かってしょうがないでしょう』とよく言われますが、かき氷は季節物ですからね。私たちは明治時代から秩父の寒さのおかげで商売をさせてもらってきたのですから、お客さまへの感謝と同時に秩父の自然にも感謝しながらお店をやっています」

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天然氷は自然からのいただきもの、と語る亮二さん。シロップで四季の移ろいを感じさせるかき氷を提供したいという思いは、創業者である哲男さんの思いでもあり、130年以上にわたり繋げられてきた阿左美家の誇りにも感じられました。

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