柔らかな光が支配する居心地の良い空間

一枚板のカウンターにはシンプルかつモダンなアンティークチェアが几帳面に並び、その奥にはスタイリッシュな北欧系のカップ&ソーサーが並んだ棚。カウンター周りには大きな窓から差し込む柔らかな光が回り、店奥のテーブル席には間接照明。丁寧に作り込まれた店構えでありながら、自然体で心地よい。ここは時間と空間を楽しむための場所だということが一目でわかる空間だ。

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日本喫茶の伝統的な「フレンチスタイル」を継承

「ここはフレンチスタイルの喫茶店なんですよ」と教えてくれたのはマスターの小川雄大さん。「フレンチスタイル」は、1970年代後半から80年代にかけて確立された日本特有の喫茶店スタイル。当時は脱サラで誰でも簡単に喫茶店ができるといった風潮があり、アメリカンコーヒーが流行っていた。そんな業界に一石を投じたのが"質実剛健"のフレンチスタイルだった。オールドビーンズと呼ばれる熟成豆をネルドリップで抽出したコーヒーを提供。照明を落とした重厚な雰囲気も特徴的だ。 「うちは窓が大きいので、ちょっと明るすぎるくらい」と小川さん。確かにフレンチスタイルというには店内は明るめだが、そのおかげでスタイリッシュさが加わり、今の時代にあったフレンチスタイル・カフェとして印象付けている。

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「フレンチスタイルって "文化"なんですよね。オールドビーンズをネルドリップで淹れたらフレンチスタイルかといえばそうじゃない。空間、価値観、コーヒーに関する知識......、コーヒーを取り巻くさまざまなものをひっくるめて初めて体現できるものだと思うんです」。

「世界中にカフェはたくさんあるけれど、喫茶店は日本独特の文化。物事にこだわって手順にこだわる。これってお茶文化から来ているのかなぁって思っているんです」。道具を大切にして、心を届ける。お茶の世界観を尊く思う日本人の気質があったからこそ、ディティールにこだわる喫茶店文化を生み出したのでは、という小川さんの推察はとても興味深い。

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テレビマンから喫茶店マスターへの転身

静岡出身の小川さんは小さい時から自宅の裏にあった喫茶店に足を運んでいたそうだ。「その時は普通に近くにあるから行っていて。当時は気づかなかったけど、今思えばとても雰囲気の良い店だったんです」。 その後、上京してテレビ制作の仕事に就いた小川さん。アンティークや古美術などを題材にした番組に携わった。古き良きものに触れる機会が多く、時を重ねたものが持つ魅力に気づいたという。そのころから「いつかは自分で何かをやりたい」という思いが漠然とあり、当時付き合っていた彼女(今の奥様・智容(ちひろ)さん)がカフェをやりたいと思っていたことなども重なり、退職を機にカフェ開業という人生の新しい目標をスタートさせた。

それからフレンチスタイルの老舗「螢明舎」(千葉県)で3年半ほど修業し、その価値観やノウハウを学んだ。働き始めたころはオールドビーンズコーヒーの存在も知らなかったというが、丁寧にネルを使ってハンドドリップをして「古き良き」を大切にするフレンチスタイルは小川さんの琴線に触れたようだ。そして30歳になる前にと独立。奥様が秩父出身だった縁で、現在の場所に店をオープンさせた。

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まろやかで奥深いオールドビーンズの味わい

オールドビーンズは生豆を数年熟成し、水分をとばすことで旨味を凝縮させたもの。ネルドリップでじっくりと落とすことで雑味のないまろやかな味わいになる。抽出直後の淹れたてではなく、一度専用ポットに移し時間を置くことで味を落ち着かせ、調える。手間ひまをかけた極上の一杯はとろりと濃厚で芳醇。苦味と深いコクを持ちつつ丸みのある味わいで、するりと胃に落ちてゆく。

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コーヒーにあわせて味わいたいのが自家製ケーキ。レア、ベイクドの2種のチーズケーキにガトーショコラなど、5種類のケーキは全て自家製だ。また、ランチメニューのカレーは豚肉をお酢とスパイスでマリネしてから煮込むポークビンダルーと鶏ひき肉を使ったチキンキーマの2種類。どちらもスパイスがしっかりと引き立つカレーで、スパイスの専門家に師事した智容さんがつくる本格的な一皿だ。

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作家さんたちとのコラボも彩りを添える

「喫茶 カルネ」を訪れたら、ぜひカウンター席に座ってほしい。小川さんが操るネルドリップの手仕事はコーヒーマニアならずとも観入ってしまうに違いない。そしてカウンター奥に並んだカップにきっと心が躍るはず。頭上のランプシェードをよくよく見れば、天然の落ち葉をさり気なく使った独創的なステンドグラスだ。 また入口脇にある革作家・YUSHI SOSHIRODAさんとコラボした雑貨、アクセサリーの陳列コーナーも見逃せない。愛らしい店のロゴイラストをあしらったグッズはデザイン性も高く、普段使いにも重宝するだろう。

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現在主流になっているサードウェーブ系はフレッシュな豆をペーパーフィルターでさっと抽出、果実感やフローラルなアロマを楽しむものだ。「同じコーヒーでも味も楽しみ方もまったく違う。魚でいえば"刺身と干物"みたいなものなんですよ」と笑う小川さんの例えが実にわかりやすくて腑に落ちた。味わい深い"干物"が恋しくなったらぜひ「カルネ」を訪ねてみて。

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