大手工場で目覚めた菓子づくりのおもしろさ

オーナーの石野翔さんは埼玉県秩父郡小鹿野町出身。埼玉県立秩父農工科学高等学校で食品関係を学び、卒業後は大手の洋菓子工場に5年間勤務しました。もともとは勤務条件などの環境面を重視して選んだ就職先だったといいますが、そこでの出会いが石野さんの人生を一変させることに。

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「工場で先輩が作っていたウェディングケーキに衝撃を受けたんです。デザインがカッコ良くて、こんなこともできるのか! と驚きました」。そこから菓子づくりのおもしろさに魅了され、自分も本格的に勉強したいと思うようになったそうです。勤務先の工場には夜間の製菓学校に通える制度があり、本格的な菓子づくりを学ぶ機会に恵まれたのも石野さんにとって幸運でした。

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日中は工場で働きながら、夜に製菓の技術を学ぶなかで「いつかは地元・秩父で自分の店を持ちたい」という思いが募っていきます。

夢に近づくためには更なるステップアップが必要だと感じた石野さん。製菓学校の講師の洋菓子店を食べ歩き、次の修業先を探す中、たどり着いたのが都内でも評判のフランス伝統菓子店。「どれを食べても本当においしくて。ぜひここで修業したいと思い、門を叩きました」

自分の舌で見つけた新たな修業先。石野さんの菓子職人としての道は、いよいよセカンドステージに移ります。

厳しい修業時代を経て、秩父に店を構える

修業先のシェフは根っからの職人気質。菓子づくりのノウハウはもちろん、礼儀などの生活面も含め、さまざまなことを学んだそうです。朝5時からスタートして夜まで働きづめでしたが、そのぶん学びも多く、厳しくも充実した修業時代だったと石野さんは当時を振り返ります。30歳で店を持ちたいと目標を掲げ、実際に秩父で開業するまで修業は最初に務めた工場を含めると8年間に及びました。

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工場時代を含め13年の時を経て秩父に戻り、起業したのは2019年。秩父商工会議所や秩父市移住相談センターを訪ね、県や市からの助成金などの申請のサポートを受けての開業でした。

「西武秩父駅」から徒歩7分の場所に構えた店は、人通りの多い立地ではないものの、市民の集まる秩父市役所や観光客が立ち寄る「ちちぶ銘仙館」、羊山公園からもほど近い絶妙なロケーション。開店当初にはSNSやチラシなどさまざまな宣伝を行ったことも功を奏して、多くの人が訪れました。そしてオープンから2年を経た現在では、落ち着いた雰囲気の中、客足の絶えない人気店に。

「秩父にはケーキ屋さんが多いのですが、周辺に同じようなタイプの店がなかったのが良かったのかもしれませんね」と石野さんは分析しています。

地元への想いを形に。誰からも愛される"贈りたくなる菓子"

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今回いただいたのは、コーヒークリームとブラウニーで構成された「コロンビア」(手前右:480円)、洋梨とキャラメルムースを層にした「キャラメルポワール」(左:500円)、フレッシュな「ぶどうのショートケーキ」(右奥:500円)の3点です。特に印象的だったのは「コロンビア」。ブラウニーに加えられたピーカンナッツの食感がアクセントとなり、コーヒーの香りが広がるクリームとのコントラストが見事でした。

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石野さんの作るケーキは、とてもシンプルなフォルムです。過度に飾り立てることなく基本に忠実な形をしていながら、施されたワンポイントのデザインが印象的。素材感がしっかりと感じられる味わいや工夫された食感などからも、丁寧に菓子づくりと向き合う石野さんの人柄が伝わってきます。

いちごは隣町の横瀬にある上の原農園のものを使用。ぶどうや桃、ラズベリーなども秩父産で、こちらも生産者さんから直接仕入れているそうです。

また、石野さんの出身地でもある小鹿野町はかぼす栽培が盛んな地域。こちらはマカロンやタルトなどに使用しています。フレッシュなフルーツが手に入りやすい秩父はパティスリーにとって良い環境のようです。

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「お客さまの中に地元の農協の方がいらっしゃって。その方に相談して紹介してもらったこともあるんです」と石野さん。ほかにも、焼き菓子やジャムに使用するコーヒーは、近所の「ワプラスコーヒー」で焙煎したものを取り入れるなど、地域との繋がりが菓子づくりに大きく関わっているといいます。

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また、「パティスリーイシノ」は焼き菓子にも定評があります。小麦とバターの香ばしさが楽しめるクッキーやビスケット類は種類も豊富。1枚から販売していますが、かわいらしい缶に入ったセットなどもあり、まさにお店のコンセプト「贈りたくなる菓子」そのもの。

店内にはかわいらしいロゴの入った保冷バッグやエコバック、ギフトボックスなどもずらり。もらった人のうれしい笑顔が目に浮かびますね。

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厳しくも尊敬する師匠のシェフから多くのことを学び、その技術と味をしっかりと受け継ぎながら、自分なりのアイデアと秩父の素材で新たな世界観を作り上げる石野さん。修業先を決めるときに出合った感激やときめきを、今度は届ける側となって情熱を捧げています。

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